たばこの記述とは関係ないですが、【逃げること】については必ずしも悪いことではないのですね。
271ページ 「昔っからそうさ。おいらはよく知らんのに。グスクもレイもいざとなるとその人のことばっかり。先生だって、ほんとうは忘れられんくせに」
「その人がよく言ったのよ、"逃げたやつはまた戦える"って。とにかく無意味に暴れちゃならん。そんなことをさせるために連れてきたんじゃない」
【煙男との再会〜たばこの再登場】です。
283ページ サチコが乗っていた。ああ、勘弁してくれ、勘弁してくれ。布切れをかまされて、手首を縛られている。膝の上にはリュウを乗せている。いやだ、勘弁してくれ、勘弁してくれ! わざわざ後部座席の扉を開けて、寝た子を起こさないようにサチコに降車をうながしたのは、煙草の煙を夜気に溶かす男だった。
「あんたは、肺がんになってくれたらよかったのに」
「静かに。さっきまで大泣きしていて、やっと寝入ったところなんだ」
あいかわらず煙たい男だった。
ダニー岸との、想像できる限り最悪の再会だった。〜
〜唇や鼻口から漏れだす煙が、寝息を立てるリュウの肺にとりこまれ、グスクの鼻先にも漂ってくる。一家にとってその副流煙は毒ガスに等しかった。〜
〜煙草の火をサチコやリュウに押しつける暴挙には、まだおよんでいない。だけどこの男はたがの外れた嗜虐紳士(サディスト)、他人の悲鳴を栄養にする狂人だ。脈絡もなく人質の目玉をえぐりかねない男には、たとえ一分一秒だって妻子を近づけておきたくなかった。〜
〜返還やガス移送が近いのでね、と煙男が言った。われわれはあらゆる危険分子を駆除しなければならない。その煙のような声。特高警察の残党。思想狩りの第一人者。(つづく)
271ページ 「昔っからそうさ。おいらはよく知らんのに。グスクもレイもいざとなるとその人のことばっかり。先生だって、ほんとうは忘れられんくせに」
「その人がよく言ったのよ、"逃げたやつはまた戦える"って。とにかく無意味に暴れちゃならん。そんなことをさせるために連れてきたんじゃない」
【煙男との再会〜たばこの再登場】です。
283ページ サチコが乗っていた。ああ、勘弁してくれ、勘弁してくれ。布切れをかまされて、手首を縛られている。膝の上にはリュウを乗せている。いやだ、勘弁してくれ、勘弁してくれ! わざわざ後部座席の扉を開けて、寝た子を起こさないようにサチコに降車をうながしたのは、煙草の煙を夜気に溶かす男だった。
「あんたは、肺がんになってくれたらよかったのに」
「静かに。さっきまで大泣きしていて、やっと寝入ったところなんだ」
あいかわらず煙たい男だった。
ダニー岸との、想像できる限り最悪の再会だった。〜
〜唇や鼻口から漏れだす煙が、寝息を立てるリュウの肺にとりこまれ、グスクの鼻先にも漂ってくる。一家にとってその副流煙は毒ガスに等しかった。〜
〜煙草の火をサチコやリュウに押しつける暴挙には、まだおよんでいない。だけどこの男はたがの外れた嗜虐紳士(サディスト)、他人の悲鳴を栄養にする狂人だ。脈絡もなく人質の目玉をえぐりかねない男には、たとえ一分一秒だって妻子を近づけておきたくなかった。〜
〜返還やガス移送が近いのでね、と煙男が言った。われわれはあらゆる危険分子を駆除しなければならない。その煙のような声。特高警察の残党。思想狩りの第一人者。(つづく)