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抜き書き帳『永井荷風』(その8)

2016年03月19日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
『日和下駄』②

【200ページ】
神田小川町の通にも私が一橋の中学校に通う頃には大きな銀杏が煙草屋の屋根を貫いて電信柱よりも高く聳えていた。

【205ページ】
しかし現代日本の西洋式偽文明が森永の西洋菓子のごとく女優のダンスのごとく無味拙劣なるものと感じられる輩(ともがら)に対しては、東京なる都会の興味は勢尚古的(昔の文物や制度を尊ぶさま)退歩的たらざるを得ない。

【215~216ページ】
私は日進月歩する近世医学の効験を信じないのでは決してない。電気治療もラジウム鉱泉の力をもあながち信用しないのではない。しかし私はここに不衛生なる裏町に住んでいるはかない人達が今なお迷信と煎薬とにその生命を託しこの世を夢と簡単にあきらめつけいる事を思えば、私は医学の進歩しなかった時代の人々の病苦災難に対する態度の泰然たると、その生活の簡易なるとに対して深く敬慕の念なきを得ない。

[ken]屋根を突き通した大木って、若い頃には私もいくつか見てきましたが、今ではすっかり見られなくなりました。アメリカとフランスで本物を知っている永井荷風の口舌には、老舗森永の西洋菓子も形無しですね。その森永本社がJR田町駅西口前に建っています。たしか一昨年が100周年ということで、ビルの側面窓ガラス全体に記念のどでかいポスターを貼り付けていました。また、私は昨年末に胆のう摘出手術を受けたこともあり、病院のありがたさを実感するとともに、「医学の進歩しなかった時代の人々の病苦災難に対する態度の泰然たると、その生活の簡易なる」についても、しみじみ共感させられました。
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