|
|||||
|
☆☆☆
「オール讀物」の連載コラムの「ちょっといい話」を再編集したもの。 山川静夫さん、山根一眞さん、水口義朗さん、矢野誠一さん、の四人が書かれており、 何方のも、芸談というか、人の魅力の良い話ばかり、昔の芸人さんって、粋でおましたな。
ほぼ、丸写しで一つ紹介すると、矢野誠一さんだから落語通、
いまでも続いているやなぎ会のメンバーでベトナムへ出かけた時のハナシ。 通貨は1万ドンが米ドル1ドルで、食事も買い物もすべて米ドルですませることができる。
目抜き通りで十歳になるかならないかの少女が、椰子の実をいれた重い天秤担いでついてくる。 「ワン・ダラー、ワン・ダラー」と連呼していくら「いらない」と言っても「ワン・ダラー」をくりかえす。 結局、私たちのマイクロバスに乗り込むところまで、一キロ小一時間ついてきた。 椰子の実をのむ気分でなかったので、チップのつもりで入船亭扇橋宗匠が五千ドン差しだすと、「いらない」と首をふる。シャツのポケットに差しこんであげたら、やにわにその紙幣を地べたに叩きつけた。物乞いではないというわけだ。あどけない表情の裏にひそんだベトナム少女の誇りに感動させられた。 扇橋さんと小三治さんと、もう一人が一ドルずつ出すと、少女は嬉しそうに器用な手つきで椰子の実に穴をあけた。 マイクロバスの中で、誰かが、「あそこで五千ドンたたきつけると、椰子の実三つ売れるんです」と、落語「猫の皿」をもじった小噺を披露して受けたけど、そうは思いたくなかった。 (平成7年8月号)
お洒落な、エッセイですよね・・・・・。