トリアングル (中公文庫) | |
クリエーター情報なし | |
中央公論新社 |
☆☆☆☆
あの歌人、俵万智さんが書いた、小説。
年上の妻子ある恋人と、最近できた年下の恋人のとの、二つの恋。
シングルマザーの道を選ばれた私生活にも重なるような、展開に興味深く読み進める。
でも、秀逸なのは、随所に織りこんだ短歌。
まさに、この情景で想う深遠な感情が歌に・・・・。
最初から気になった短歌を、順に、ご紹介。
(どんな、小説だったかは、ご想像ください)
夕刊のようにあなたは現れてはじまりという言葉を思う
文庫本を開いて缶のまま飲むビール一人暮しは旅にも似るか
友だちに戻れないかもしれないと思えば寂し口づけなども
言葉ではなくて事実をかさねゆくずるさを君と分かちあう春
年下の男に「おまえ」と呼ばれいてぬるミルクのような幸せ
飛行機の窓から見下ろす東京の夜は全部がディズニーランド
心には責任なんてとれぬゆえ愛せ とりかえしのつかぬほど
物語はじまっている途中下車前途無効の切符を持って
明治屋に初めて二人で行きし日の苺ジャムの一瓶終わる
「たすけて」と言えばあなたは会いにきてくれるだろうかくれぬだろうか
蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと
アボガドの固さをそっと確かめるように抱きしめられるキッチン
つけあわせ野菜のように聞きながら味わっている君の口ぐせ
かすみ草だけの花束抱えれば一輪のバラとなれる錯覚
家族にはアルバムがあるということのだからなんなのと言えない重み
焼肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き
別れ話を抱えて君に会いにゆくこんな日も我は晴れ女なり
なめらかな豆腐の白が揺れている出会ったころの二人のように
ぐつぐつと水菜の横で煮えている「友だち」という言葉のずるさ
昆布はもう引き上げようよささやかなことにも確かにあるタイミング
さかのぼってあなたを否定するわけじゃないけど煮えすぎている白菜
散るという飛翔のかたち花びらはふと微笑んで枝を離れる
九度目の春を迎える恋なればシチュ―を煮込むような火加減
セックスがらみのエロイ短歌は、あえて省きましたが、
恋愛小説の形をとりながら、人として生きるとは、
問うている作品でございます。
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