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『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』

2013年11月22日 | BOOKS
<文庫版>『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』
村岡恵理/著  新潮社文庫

<単行本>『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』
村岡恵理/著  マガジンハウス


 次(2014年春~秋)の連続テレビ小説『花子とアン』の原案、主人公となる「村岡花子」のお孫さんである村岡恵理さんが書いた評伝です。
(脚色して設定も少し変えるようなので「原作」とは言わないのですね。そして、自分で書いていないので「自伝」でもないわけで……。実在の人物が主人公だと、つい「自伝が原作」と言いたくなっちゃうところですが。)

 時代は「ごちそうさん」と重なって、明治に始まって大正・昭和と進んでいきます。

 貧しい地方の商人の娘が、華族や士族のお嬢様の学ぶミッションスクールの寄宿舎へ入り、良き指導者・生涯の友と出会い、給費生として勉学に励む様子は、本当に『赤毛のアン』の主人公アンの人生と大きく重なります。

 この本を読んで一番ショックだったのは、今の時代との「結婚観」の違い。
 結核を患って3年近く前に実家に戻った妻と、兄夫婦に預けた息子がいる男性に、「跡取り息子」だからと言って次々に縁談が舞い込むというところに、初めは嫌悪感を感じてしまいました。
 キリスト教の「健やかなる時も、病める時も」という結婚の誓いがあるにもかかわらず、「家」を守るためには別の人と結婚することを考えざるを得ないということ。(また「跡取り息子」でなければ事情が違ったのかもしれませんが……)初めの結婚が恋愛結婚であったかは書かれていませんし、親同士に仕事の付き合いがあった女性との結婚だったようですが、花子とのラブレターを読むと、「妻」であった女性のことを考えてしまって辛くなります。もちろん、この時代に「妻」の責務を果たせない状態で「妻」の座にあり続けることが幸せかどうかは本人でないと分からないことですし、現代のように結核が治る病気であったなら事情も大きく違ったでしょう。
 さらに、花子が学生時代に、メーテルリンクの「モンナ・ヴァンナ」(「モンナワンナ」)を読んで書いたというメモにも考えさせられました。
「人間は最上のものを知らなければ、第2のもので満足できる。然し、長い間第2のもので満足していた後に、最上のものにめぐり逢うとしたら、それは不幸にもなり得る」
 結婚をしていれば「道ならぬ恋」「不倫」と言われるのは現代でも同じですが、「家」のための結婚があった時代に「最上のもの」に出会ってしまった人たちの物語は、現代の私の倫理観・結婚観で判断してはいけないのかもしれません。


 戦火の中でも明日への希望を忘れず、友情を大切にし、夫婦愛を貫き、家族と日本中の子どもたちを愛した一人の女性、村岡花子さん。
読んでいて、ただ明るく幸せになれる本ではありませんが、それだからこそ激動の時代を生きた女性の記録として、一読に値すると思います。



<関連リンク>
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