世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

約をもって

2008-02-11 10:20:07 | てんこの論語

子曰く、約をもって、これを失う者は鮮なし。(里仁)

先生はおっしゃった。なにごとにも控えめを心がけなさい。そうすれば、滅多に馬鹿なことにはならんから。

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最近、テレビで大きな選挙戦のニュースが流れていますが、その候補者の演説を聞くたびに、思うことがあります。そんなことを言って、大丈夫なのか?

候補者は、上等なスーツをびしっときめ、身振り手振りも派手に、高々と美しい理想をかかげている。そんな麗しいことを、そんなに簡単に言っていいのか。わたしは心配になります。

彼らの言っている理想は、遠い昔から、人類がこの地上に実現しようと、苦労しつづけてきたものなのです。それを知っているものなら、それを実現することが、どんなに困難なことなのかを知っている。たくさんの人が、それをやろうとして、夢破れ、打ち砕かれていった。

彼らは、派手な舞台で、たくさんの支持者に囲まれながら、公然とそれを言うということの意味が、本当にわかっているのだろうか。

それが自分にできると、本当に思っているのだろうか。

少しでも、その理想の実現に着手し、何かの仕事をしてきた人なら、それがどんなに苦しいことかわかる。自分だけでなく、どれだけの人に助けてもらわねばならないか、わかる。人類の苦しみは、どれだけ深いものか、わかっている。

実際のところ、選挙の公約などは、破られて当たり前という感じで、支持者も考えているようです。おそろしくカッコイイことを言っても、別に守らなくてもいいんだという、浅はかな考えが、はびこっている。

しかし、言ってしまったことばは、返らない。いつしかそれは、必ず自分に返ってくる。かっこつけて、言ったことばに、見事に自分の愚かさを見破られる。そして、信用を失い、人が離れていく。何もかも、嘘だったのかと。

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巧言令色、鮮なし仁。(学而)

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近現代では、物質文明の巨大化から、魂の文化がおろそかにされる傾向がありました。ひところ言われた、人間疎外ということですが、そこから、自分の意見はとにかく、上手にはっきりと人前で表現せねばならないということになり、それから、演説の技術が発達した。まるで映画のようなかっこいいセリフ、アニメのように戯画化された候補者、笑い方やちょっとしたしぐさまで、マニュアルの存在を匂わせるかのように、どこか似通っている。最近の演説は、まるでショービジネスのようです。

やたらと美しく見せているけれど、見ていると苦しくなって、逃げてしまう。ここまで弁舌の技術が発達したら、嘘がはびこることを、どうして防げばいいのか。

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古え、言をこれ出ださざるは、躬の逮ばざるを恥じてなり。(里仁)

昔、人が軽々とものを言わなかったのは、それができなかったら恥ずかしいと思っていたからだ。

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実際、大きなことを言って、できなかったら、すごくかっこ悪いんですが、ずいぶんとみな、大きなことを言っています。みな、本当にそれができるのなら、この世界は、とっくにすばらしい理想の世界になっているはずなのですが。



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