世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

チコネ

2012-05-19 12:11:11 | 薔薇のオルゴール

今度は、二冊目の著書、「小さな小さな神さま」から。
タイトル通り、いろんな神さまがいっぱい出てくるお話なのですけれど。
美しい谷をつかさどり、豊かな世界をつくっていた、小さな神様が、ある日、にんげんというおもしろいものがいると聞いて、にんげんをもらうために、はるかな山の神のもとへと旅をする、という話なのですが。

このお話については、立派な神様の絵を描いてもよかったと思うのだけど、それは本の挿絵にいっぱい描いたから、まあいいやと思って、お話の中に出てくる、ただひとりの人間、チコネを描いてみました。

神を裏切り、殺し合いを始めた人間たちの中で、ただひとり、それを悔やみ、神様のもとに帰ってきた人間、それがチコネです。そして神様は、たったひとりのその人間のために、すべてを与えていく。

にんげんは幼い。本当に何もわかってはいない。どんなにか神様が大事にしてくれて、愛してくれていたのかも知らずに、勝手なことをやりはじめて、神様を馬鹿にして、神様を見捨ててゆく。その中で、たったひとりだけ、帰ってきた。たったひとりだけ。

それが、小さな神様の心を揺り動かすわけなのですが…。

小さな神様は、人間たちに言うのだ。
悲しい日々だった。苦しい日々だった。やってはいけないことを、お前たちはした。だが、もう一度、わたしのもとで、やり直してみるか?おまえたちがそう思うならば、わたしはおまえたちのために、すべてのことをやってやろう。

チコネはどこにいるだろう? 今も、あの小さな神さまの谷に住んでいるだろうか。

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イスフィーニク

2012-05-19 07:12:53 | 薔薇のオルゴール

今日は、わたしの処女長編ファンタジーから。
「フィングリシア物語」
もう二十年近く前に発行した本ですが。その登場人物を、絵に描いてみました。冒頭はヒロインの「イスフィーニク」。略してイフィと呼ばれます。
白髪に卵色の肌をしたタリル人の少女という設定です。なんだか、わたしの書く話の中には、白い髪の人が多いな。

気恥かしくて、出版してはみたものの、とても自分では読めなくて、ずっと置いてあるだけだったんですが、最近何を思ったのか読み返してみると、いや自分でいうのはちょっと恥ずかしいのですが、これがなかなか面白い。一気に半日で読んでしまった。もちろん、若さゆえの勉強の足らなさというか、荒さというのも目につくんですけど、けっこう面白い。長いこと読んでなかったので、話の筋とか細かい設定もほとんど忘れていたので、とても新鮮でした。


「シルタルド・ジン」

一応彼が主人公なんですが。頬が赤いのは紅潮しているのではなくて、彼が赤色人種だからです。今は滅びた古代イオネリア民族のただ一人の生き残りという設定。
彼はいろいろな運命の荒波に弄ばれながらも、懸命に生きていく。

物語には、タリル人やイオネリア人のほかにも、いろいろな人種、民族が出てきます。シリンギタ人、グリザンダ人、トトリア人、カイトゥム系褐色人種…。古民話や伝説や宗教や現代文明の比喩や、いろんなものを放りこんで、組み立て、お話をつくってみた。書いていた当初のことはあまり思い出せないけど、とても苦しい思いをしていたことは、なんとなく覚えてる。


「アスキリス」

物語の中の設定年齢にしては、ちょっと若すぎるなあ。お話の中では、彼は髭を生やしてて、年は多分四十代くらいじゃないかと思う。白髪、目は灰色のタリル人です。いろいろと高い勉強を積んでいる正教の僧侶にして、異教の呪術師という設定。


「スクルーン」

人語を解する猫。彼がなぜ人間の言葉を話せるようになったのかは、まあ秘密にしときましょう。もともとは普通の山猫だったんですが、ちょっとした事故がもとで、人間の言葉が話せるようになったのです。
この「フィングリシア」も、発行した当時、いろいろな人に読んでもらったけれど、読んでくれた人はほとんど、このスクルーンが一番好きだと言ってくれましたっけ。

このお話は、当時まだ私の胸の中に深々とえぐられていた傷が、もろに表面に出ています。生きることが、相当に苦しかった当時の自分がそのまま入り込んでいる。でもなんだか今は、それが、幕一枚向こうの、何か知らない別の世界のように思えるんだ…

確かにあの頃、わたしはつらかった。あの頃の自分は、ひとつの結晶として自分の中にあるけれど、今の自分は、当時の自分とは、ずいぶん違います。何が変わったのかな。

この「フィングリシア物語」は、あの頃の私が、存在していたという証明なんでしょう。でももう、あの頃の苦しみも、傷も、はるかかなたの夢のようだ。懐かしくはない。ただ、しんみりと静かな悲哀が、煙のように漂ってくるだけだ。

何が変わったのかなあ。




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