ぼくを入れる 小さなお棺は
透き通った水晶でできていて
太陽の光に染まった
きれいな水が入っている
底には 金色のバイカモが
光を跳ね返しながらきらきらと揺れていて
時々 透明な岩魚が翻って
宝石のような光の模様を
水の中に描くのだ
ぼくは 青ざめた顔をして
その中に入ってゆく
水が入っているけれど
濡れたりはしないんだよ
それは不思議な水だ
足を入れると かすかな波紋が広がる
少し経つとそれは
ふしぎな薄紫色の花になって
水の上を睡蓮のように浮かびながら
静かな歌を歌う
それは 柔らかな白い真綿の上に
ひとつぶの真珠を落としたかのような
かすかな歌声だ
けれど 痛いほどぼくの胸を刺す
故郷は本当の故郷ではなかった
確かなものは 確かなものではなかった
本当だと思っていたことはみな 嘘だった
悲しいけれど 喜んでいるふりをし続けてきた
ぼくの愚かな努力は 笑うに笑えない道化の
下手な芸でしかなかった
ふ
て 笑うのはぼくだ
ぼくの下手な芸を笑うのはぼく
ああ 本当のことを知っていたのに
ぼくは 嘘の王様に滑稽なギャグを言い続けた
みんな嘘だって知っていたのに
何も言えなかった
言いたかったんだよ ほんとうは君に
それ みんな嘘だろう?
ぜんぶ こんなの お芝居だろう
こんなことが どうして幸せなんだ?
ああ ぼくはぼくのお棺に
片足を入れ もう片足を入れ
金色のバイカモの上に静かによこたわってゆく
水は入っているけれど
濡れたりはしないんだよ
ただ 水に溶けている日の光に
染まってゆくだけだ
棺に横たわったぼくを
光が溶かしてゆく
ぼくは 水晶の中の不思議な炎で
静かに燃えていく
そうして
しばらく眠った後 ぼくは
いつしか 虹を秘めた白い蛋白石の
きれいな骨になっているのだ
透き通った岩魚が
ぼくの思考が入っていた頭骨の中を
ひらりと通り抜けていく
そのとき ぼくは
ああ と声をあげた
今 ぼくは 本当のことが わかった