これは、鳥音渡の死後、両親の手によって出版されたという詩集である。友人も協力してくれて、よい詩集ができた。現実のかのじょは、詩を書いても物語を書いても、誰も認めてはくれなかったが、鳥音渡は両親や友人に愛されて、自分の詩集を出すことができ、社会的にも認められた。
かのじょは人を愛していたが、人はかのじょを愛さなかった。両親の愛にもめぐまれず、友人もほとんどいなかったが、かのじょ自身はそれをあまり重く考えないようにしていた。人間よりも、植物の方が、気持ちが安心した。彼らは決して嘘はつかないからだ。明るい愛で生きるための強さをくれる。人間はいつも、嘘を抱えて心を隠しているから、用が無い限り、あまり近寄っていかなかった。
かのじょには重い使命があった。それを果たすためにかのじょはさまざまに努力していた。人間には決してそんな自分の心はわからない。わかってくれるのは、遠くにいる仲間だけだろう。
鳥音渡は、そんなかのじょの小さな夢を表現してくれた、小鳥のように小さな詩人である。愛する仲間と、ただの人間としてともにこの世で生きていくことができたら、どんなに幸せだろうと。
人間さまに言いたいのは、重い使命を背負わずに、地上で自分の幸せのためだけに生きていける人間存在がどんなに楽か、自分では全く分かっていないということだよ。
明日からまた、計8編を、1編ずつ発表していく。