かすかにも 聞こゆる 波の音よ
けふありしことの つたなき魂の苦しみを
あらひきよめたまへ
耳の奥の貝に染む そのささやきの
きよらかな愛撫にて
ひとのかなしみを 甘き夢につなぎ
やすらかな魂のしとねに いざなひたまへ
愛を紡ぐ 細き神の指の
涙をためて閉じたる 人のまぶたに触れ
そのかなしみを 風の衣にかはかし
ひととき 忘却の小部屋に眠らせたまへ
今はただ 忘れさせたまへ
新しき 日ののぼる朝には
その荷の苦しみ ちひさくもやはらぎ
いきてゆくものの 清きまなざしに
開きたる窓辺にふく 青き風に
心やすらはむ
そのひとときぞ
人の世に木漏れ日のごとく散る 愛の光にあれば
われはけふもまた 生き生きて ゆかむ
かすかにも 耳の奥の ちひさき貝の
なつかしむ 波の音よ
この明るきもますぐなる緑の小道に
なれは何処より来たりしや