世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

恐竜の涙

2015-04-06 07:10:28 | 瑠璃の小部屋

晴れた春の日に吹く
光に染まった風をほどいて
一本の小さな糸を作る
何本か作ったその糸をよって
丈夫な光の糸をこしらえると
ぼくはその糸に
恐竜の涙でこしらえた
小さな虹色の星をとおしてゆくんだよ

恐竜の涙は不思議な玉で
うっすらとすきとおって
時々 あるのやらないのやら
わからないように点滅して
蝋燭のともしびのように
消えてゆこうとする
けれども 決して消えはしないんだ

恐竜はもう とっくの昔に滅んでしまったけれど
恐竜の涙は まだ残っているんだよ
誰にも教えない ぼくだけが知っている
秘密の地層から ぼくが発掘してくるんだ
貝殻や かわいい古代魚の化石といっしょに
それは地層の中に眠ってる
ぼくがそれを見つけると
涙はうれしそうに 栗鼠のような鳴き声で答えてくれるんだよ

ほんとうに ほんとうに
長い間
恐竜の涙は 自分を誰かに見つけてもらうのを
待っていたんだ

ぼくはその恐竜の涙を
光の糸に通して 
きれいな首飾りを作る
でも首飾りは女の子の首を飾ったりはしないのさ
十分な長さにして輪にしてあげると
風の中で くるくる回って
昔の蓄音機から流れてくる
古い音楽のように
ふしぎな歌を歌い始める

誰も知らないだろう
恐竜が生きていたときには
神様が地上にいつもいて下さって
ふしぎな歌や踊りで
恐竜たちをなぐさめてくださっていたことを

生きることは 苦しかったんだよ
恐竜も 苦しかったんだよ
だから涙を流していた
いつも流していた
空を見ては 何かを探していた
それは大切なもの
忘れてしまっては悲しすぎるもの
でも決して思い出してはいけないもの

神様はいつも 
歌って 踊って
悲しみが恐竜の心を全部溶かしてしまわないように
気をつけてくれていたのだ

さみしい恐竜の涙を
ぼくは秘密の地層からとってきて
小さな首飾りのような輪にして
はるかかなたの歌を聞く
そしてわかる

今でも神様は 
どこかで歌って 踊っている
ふしぎな 聞こえない歌
踊りは喜びの風になって 世界をかき回す
ぼくたちの心が 悲しみに溶けてしまわないように

ああ 愛が
雨になって降ってくる
光の水になって 降ってくる
ああ 苦しかったんだよ
ぼくは とても
でも もういいんだ

神様の 愛の雨が降っている





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