読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

今野敏『任侠病院』を読む

2013年09月10日 | 読書

◇『任侠病院』 著者:今野 敏  2011.11 実業之日本社 刊
  
  

  今野敏の警察ものは何冊も読んだが、『任侠シリーズ』は初めて。今野敏は結構幅広いジャンルの作品
 を書いている。とりわけシリーズ物が多く、数えると23もあった(2作だけというのが結構ある)。
  この『任侠病院』は第3作目で、軽快なテンポで気楽なエンターテイメント作品で楽しめる。
  登場する任侠のおじさんやお兄さんは、やくざ者らしくないまともな考えをする素直な人ばかりで、実世界
 の任侠の親分や兄さんたちは照れくさくて下を向くかもしれない。

  阿岐本組。組員は親分(オヤッサンといわれる)の阿岐本を入れても総員6名という小さな所帯。とても暴
 力団のイメージに合わないようなことをしながら地域に溶け込もうと努力している。
  この阿岐本組は、兄弟組の親分に頼まれて病院の再建に手を貸すことになった。
  実はこの親分は任侠魂の鏡のような人で世のため人のためには一肌も双肌も脱ぐ。前作『とせい』では
 経営不振の出版社を、『任侠学院』では私立高校を見事に再建している。今度は病院である。

  親分が財団医療法人の監事に代貸の日村 が常務理事になって不慣れな改革に取り組むのだが、その
 病院の経営には関西系の指定暴力団が裏に居るフロント企業が食いこんでいて、医療行為以外のあら
 ゆる業務を独占し暴利をむさぼっていた。
   同じころ、阿岐本組がいる町内で再開発事業を目論む不動産会社があり、折からの暴力団追放強化月
 間をいいことに阿岐本組のビル立ち退きを求めるデモをしかけて来た。この不動産会社はなんと病院の
 暴力団とつながっていた。

  やくざやギャングは世の中のもめごとの解決に動き、そこから巧みに金を産ませている。したがってネゴ
 シエーターとしての手管には長けている。阿岐本組の組長(オヤッサン)は病院の暴力団系企業の排除
 と同時に無茶な再開発計画の断念させるという離れ業を仕組み実現した。
  何よりも驚くことは病院のスタッフにやる気をもたらしたことだ。そんなヤクザがどこにいる?今野敏の世
 界である。
  (初出は「ジェイ・ノベル」2010.5月号~2011.5月号まで)

  (以上この項終わり)

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