読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ポール・アードマンの『無法投機(THE SET-UP)』を読む

2015年02月07日 | 読書

◇ 『無法投機』 原題:THE SET-UP
          著者:ポール・アードマン(Paul Erdman)
          訳者:森 英明  
 
  

  那須温泉への旅行に携えた文庫本は『警視の週末』。バックアップ用に借りたのがこの本
 『無法投機』である。
  原書発行が1997年、翻訳されたのが1999年(平成11年)といささか古い作品であるが、
 1997年に起きた有名なデリバティブ取引に起因する英ベアリング銀行の破綻があり、三
 菱銀行の事件もあった。
  この間金融システムが大きく変わったということもない。金融取引の詳細を勉強しながら究
 極のインサイダー取引の展開とそれに伴うスリリングで軽快なテンポの活劇が楽しめる。

  著者はカナダ生まれであるが、米ジョージタウン大学卒業後スイス・バーゼル大学で博士号
 を取得している。37歳でスイス・ユナイテッド・カリフォルニアの初代社長となるがココア投機
 の失敗で下獄。獄中での作品『十億ドルの賭け』で米探偵作家クラブ最優秀新人賞を受賞し
 ている。自身の実体験を踏まえたマネーゲームのリアルな語り口などから日本の金融実務
 者の研修に作品が使われたこともあるとか。

  主な舞台は国際金融の元締め、スイス・バーゼルの国際決済銀行(BIS)。日・米・英・独・
 仏・伊・加・オランダ・ベルギー・スウェーデン・スイスの11カ国の中央銀行総裁が集まる。
 このBISのメンバーの一人スイス国立銀行の総裁が高校の同級生の弁護士と結託し、イン
 サイダー取引の企みに加担し、その罪を米・連邦準備制度理事会(FRB)の前議長になす
 りつけるという奇想天外な筋立てである。
  BISで明かされた情報を元に、金利先物の取引で莫大な利益をあげ、資金を西インド諸
 島の銀行に逃避させる。最初の取引の証拠金の影の出し手・黒幕は闇社会の資産家。

  スイスの厳格な銀行取引の秘密保持は有名で、1934年の銀行秘密保持法で厳格な守
 秘義務が課せられているため、律儀なスイス人はこれを楯に顧客情報を明らかにしなかっ
 た。このため世界の王侯貴族や独裁政治家、政党幹部、マフィアの親玉、有名芸能人など
 の秘密資産がスイスに流れ込んだとされている。
  しかし近年スイスの頑固な守秘が、犯罪に絡むマネーローンダリングの温床との批判が
 高まり1992年スイス銀行協会は銀行守秘性に制約を加える合意書を取り交わし、1998
 年にはついに「マネーローンダリング法」が成立、口座が不正資金の操作に使われている
 と疑わしい時には、銀行に通報義務が課せられることになった。 

  FRB前議長ブラックは厳しいスイス官憲の追及にめげず、妻と懸命な脱出を試み(実は
 黒幕の策略)アラスカにおいて叛逆に出る。この先は読んでのお楽しみ。
  アラスカ半島イリアムナ湖でのマス釣りのシーンも楽しい。
  
  小説にはめずらしく38ページに及ぶ金融関連用語の解説付きである。
  SET-UPとは「八百長・仕組まれた罠」

 (以上この項終わり)

コメント
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