◇『死者は眠らず(NO REST FOR THE DEAD)』
著者: ジェフリー・ディーヴァー・サンドラブラウンなど26人
訳者: 赤沢あかね 2015.2 講談社 刊 (講談社文庫)
どんな作家の、どんな作品であろうと、死刑のシーンは後味が良くない。たとえそれが
罪の償いであろうと、緩慢にして公然たる殺人は読んでいて気が滅入る。ましてやそれ
が冤罪であればなおさらのことである。
Twenty-six writers.One mistery. ジェフリー・アーチャー、サンドラ・ブラウン、
など26人のそうそうたるミステリー作家が一つの小説を章を追って綴る。
編集者はアンドリュー・F・ガリー。癌の慈善団体への寄付を目的としたこの企画に多く
の作者が二つ返事で賛成してくれたという。完成までに3年かかった。
それぞれ特徴のある作家を相手に全体の調和をとりながらもミステリーとして完成さ
せるという編集者の苦労はいかほどであったか。
サンフランシスコの美術館出準学芸員を務める資産家のローズマリーが同じ美術館
で学芸員を務める夫クリストファーを殺した罪で捕らわれる。彼女は一貫して無実を訴
え続けるが、、すべての証拠が彼女が犯人であることを示しているとして死刑を執行さ
れた。
ローズマリーにはクリスとの間に二人の息子・娘がいる。またピーターという、どうしよ
うもない呑んだくれで金に汚い弟がいる。ピーターは甥・姪の信託財産を狙っている。
夫のクリスは女にだらしなく、目に付いた女にすぐに手を出す。美術館の高価な名作を
あの手この手で持ちだして盗品市場で荒稼ぎをしている。
ジョンというサンフランシスコ市警の刑事。ローズマリーの捜査に当たったが、彼女が
真犯人との説には疑問を持ちながらも、法廷で自分の証言でローズマリーを死刑に追い
やったという罪悪感から精神的に追いつめられて退職。しかし執拗に真相を追い求めて
いる。
ローズマリーが死刑になってから10年の月日が流れた。彼女の友人でもあった美術館
の会長トニー・オルセンはローズマリーの10周年追悼会を開く。
追悼会に出席した関係者の中に真犯人いるのか。その場で明かされたローズマリーの
日記帳の公開で何人かの関係者に動揺が走る。刑事ジョンは彼らを追いつめる。
そしてついに明かされた驚くべき真相とは。
とはいうものの私は読んでいく途中で真犯人はなんとなく見当がついたし、死んだとみ
なされたクリスは実は生きているだろうとも思っていたので、そう奇想天外なストーリー
ではない。
ただ26人の作家が独自の手法で担当章を書き、これを全体のバランスをとりながら無
理なく一本の小説としてまとめた編集者の努力と才能に拍手を送りたい。
(以上この項終わり)