◇ 『ラスト・チャイルド』(原題:The Last Child)
著者:ジョン・ハート(John Hart)
訳者:東野さやか
2010.4 早川書房 刊 (ハヤカワ・ミステリー文庫)
アメリカミステリー界の新帝王と称されるジョン・ハートの第三作。
主人公は13歳の少年ジョニー・メリモン。そしてジョニーを陰に陽に支える主任刑事クライド
・ラファイエット・ハント。
事件は1年前ジョニーの双子の妹アリッサが何者かに誘拐され行方不明となっった。警察の捜査
もお手上げ状態になり、ハントも追い詰めらた状態のところから話は始まる。
ジョニーの父親はアリッサを探しに出かけたままいなくなった。母はショックでクスリとアルコー
ルに逃避している。警察の捜査は一向に進展しない。神様に祈ったが聞き入れてくれる兆しもない。
業を煮やしたジョニーは自分で探そうと変質者のリストをつくり彼らの挙動を監視する。力こそ物事
を解決する肝とばかりに、インディアンや黒人の黒魔術の品々をそろえたりする。
ハントはジョニーの母キャサリンに思いを寄せており、この事件に個人的心情からものめり込んで
いる。そして昔彼女にふられた地元の不動産王ケン・ホロウェイは薬物で彼女を篭絡し、暴力をふる
っている。
手詰まりとなったアリッサの捜査の最中、新たに7体もの死体が発見される。刑事部門の長である
ハントは進退窮まる。
ジョニーの働きで事態は表もいなかった形で進展を見せる。ジョニーの三つの願いはほぼ満たされ
た。当初彼が神にすがりお祈りしたときの三つの願いとは。①母がクスリを止めますように、②家族
が戻ってきますように、③ケン・ホロウェイが死にますように、ゆっくりと時間をかけて、悲惨な死
に方をしますように、恐怖に怯えながら死にますように。(何といじらしいことか!)
ジョニーの行動をはじめ、ハントと相棒のジョン・ヨーカムの働きなど事態はテンポよく動く。ス
トーリーはミステリアスでかつサスペンスフルである。適宜にスリリングな場面も用意されエンター
テイメントとしての条件は全て備えた作品ではあるが、実は単純な娯楽作品ではなく、父と息子、友
人同士の信頼とその揺らぎ・疑心暗鬼、家族内の愛憎と葛藤などを絡ませた、言わば”家族の物語”で
もある。
まさにジョン・ハートの面目躍如たる作品のひとつである。
(以上この項終わり)