◇『目隠し鬼の嘘』(原題:Blindman’s Bluff)
著者:フェイ・ケラーマン(FAYE KELLERMAN)
訳者:高橋恭美子 2016.1 ハーパーコリンズ・ジャパン 刊
フェイ・ケラーマンのピーター・デッカー・シリーズ第18作目。
本作には視覚障碍者ながら聴覚に優れ、殺人容疑者の特定に貢献する裁判所の
通訳者(スペイン語)が登場する。その名はブレット・ハリマン。
英語でBlindmanbluffとは目隠し鬼ごっこのこと。ただ原題のBlindman’s
bluffは盲目者の騙しあるいは"はったり"のことを表しているのかもしれない。
ネタバレになるかもしれないが「嘘」の要素はないものの、暗示的である。
際どいサスペンスや難解なミステリーがあるわけではないが、この小説を読
んでいるとアメリカの警察が殺人事件でどんな手順でどんな捜査をやっているか
よくわかる。TVドラマ「刑事コロンボ」などの操作場面は表面的なもので、実際
は刑事以外の鑑識・検視や巡査などの働きもかなり重要なのだ。捜査状況などは
日本では何日も捜査本部に泊まり込みをして…などという話になるが、家庭を大
事にする彼の国では上司が適宜家に帰らせる。誘拐事件などはともかく、どんな
殺人難事件でも所詮人が動いて初めて物事が進むのであって、家庭を壊してまで
シャカリキになることはない。アメリカの方が合理的である。
ロサンゼルス郊外の街で殺人事件が発生。不動産王のガイ・カフィー夫妻とメ
イド、警備員2人の5人が殺され、ガイの弟ギルは重傷で発見された。
広大な屋敷には10人もの警備担当者を初め何十人もの使用人がいるが、2人の
警備担当者の行方が分からなくなっていた。
LA市警署のピーター・デッカー警部補の下7人の刑事が捜査に当たる。
ガイには二人の息子とギルという弟がいて会社経営に携わっている。またギル
の息子メイスもこの会社の幹部となっている。推定3,000万ドルという莫大な経
営資産があることから、遺産を巡るトラブルが動機とみて捜査を進めるが、盲目
の通訳ハリマンが、凶悪なヒスパニック系のギャング二人が事件に関与している
ような会話を耳にし、デッカーに通報してきたことから事態は新たな展開を見せ
る。
地を這うような足取り調査が続く。
結局殺人に係わったと目される警備担当のマーティンらを追い詰める捜査過程
が延々と描かれて下巻の大半がそれに費やされる。やや食傷気味になって来たと
ころで一挙に首魁が判明、公判に移ることになった。繰り返しになるがロス市警
刑事部門の粘り強い捜査を知るのに格好の警察小説だった。
(以上この項終わり)