読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジョン・グリシャム『最後の陪審員(下)』

2021年01月23日 | 読書

◇『最後の陪審員(下)』(原題:The Last Juror)

  著者: ジョン・グリシャム(Jhon Grisham)
  訳者: 白石 朗    20010.1 新潮社 刊(新潮文庫)

 

 本書上巻ではミシシッピー州クリントンという小都市における週刊新聞紙
「フォード・カウンティ・タイムス」の新社主・編集人の誕生と、おぞまし
い強姦・殺人事件を巡る裁判審理が中心であった。とりわけ陪審員が「Guilty」
の次に下した「終身刑」の評決の衝撃であった。

 下巻ではこの裁判結果がもたらしたと思われる元陪審員連続殺人事件が中心
で、ミステリアスな展開がある。
 クラントンでは二人目のヴェトナム戦争における戦死者を送る葬儀でウィリ
ーは自分がこの郡でただ一人の新聞人であることに愕然とし、ヴェトナム戦争
に対する疑念を社説で明らかにした。戦争非難を難詰する電話と手紙が押し寄
せた。新聞にはその手紙を全て載せた。ただしハイスクールの若者たちは社説
に対し応援の手紙の束を持ってきた。

 1978年9月18日ウィリーはダニーの仮釈放審査会が開催されることを知る。
 終身刑でもミシシッピー州の仮釈放制度では強姦罪で10年、殺人罪で10年
合計20年は仮釈放できないはずなのに、服役の逐次執行がいつの間にか随時
執行(平行執行)に代わっていたらしい。しかも秘密裡に審査会が開かれる
とは。
 ウィリーが駆け付けると委員会のメンバーのほかダニー・パジェトの家族
と弁護士のウィルバンクス、このほかフォード郡警察署長も住民の誰一人立
ち会っていなかった。わずか8年の服役で仮釈放とは。
 ウィリーは新聞記者の立場でありながら一人証人として審問に立ち会った。
証言を求められたウィリーは事件の残酷さ、法廷でのダニーの脅迫放言など
を述べ、今回の仮釈放申請を「却下」に持ち込むことができた。

  某新聞社が「フォード・カウンティ・タイムス」に買収を申し込んできた。
値段は130万ドル。ウィリーはいい加減記事を書くことに飽きてきてはいた
が、首を縦には振らなかった。
 8か月後。再度ダニーの仮釈放審問会が開かれた。ウィリーは出席は拒まれ、
5対1で仮釈放が認められた。10万ドルで買収された上院議員が裏で動いたら
しい。

 ダニーが出所してから3か月後、陪審員のひとりレニーファーガスンが射殺
された。ダニーが裁判のの脅迫した通りの反撃開始である。
 11日後、次に犠牲者となったのはモー・ティールだった。残った8人の元陪
審員は警察官や友人たちに見張られながら不安な日を過ごした。
 黒人ただ一人の陪審員だったカリーは陪審協議で死刑反対を主張した3人の
陪審員(レイニー・モー・マクシーン)をウィリーに明かす。ダニーの死刑
に反対した人がなぜ殺されるのか。筋が通らない。犯人は誰なのか。

 それからしばらくしてウィーリーは150万ドルで新聞社を手放した。
 7月の或る夜、事件は劇的な展開を見せた。第3の元陪審員・マクルーン
・ルートが送られてきたペカンの包み(爆発物)の爆発で大怪我をし
たのだ。
 ついに唯一の容疑者ダニーに逮捕状が出され逮捕されたが、彼のアリバイ
を主張する人が何人もいて、保釈審問会が開かれることになった。
 そして審問会のさ中、ダニーが狙撃され即死した。
 犯人はかつて強姦殺人被害者のローダ・カッセローに思いを寄せていたハ
ンク・ホーテンだった。精神病で入院していた彼はダニーとダニーを死刑判
決から救った陪審員を許すことができず、退院後秘かに4人を狙っていたの
である。

 著者ジョン・グリシャムは本作では法廷中心のありきたりのサスペンスで
はなく、アメリカ南部の保守色が色濃く残る小さな町を舞台に、司法制度の
欠陥を指摘するとともに、人種隔離政策の撤廃に揺れ、郊外型ショッピング
センターによって中心商店街が廃れていく時代の流れを黒人のレニー・ファ
ーガスン一家との交流を通じて鮮明に浮き上がらせるのが狙いだったようで
ある。

                       (以上この項終わり)

 


 
 

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