読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジョン・グリシャム『最後の陪審員』(上/下)

2021年01月17日 | 読書

◇『最後の陪審員』(上)

           (原題:The Last Juror )
                   著者: ジョン・グリシャム(Jhon Grisyam)
                   訳者: 白石 朗  2010.1 新潮社 刊(新潮文庫)



 リーガル・サスペンスの巨匠ジョン・グリシャムの作品。
 若冠23歳の若者ウィリー・トレーナーはミシシッピー州フォード郡唯一
の週刊新聞「フォード・カウンティ・タイムス」の社主・発行人兼編集人
になった。マスコミ志望だった彼は卒業を前にミシシッピー州クラントン
の「フォード・カウンティ・タイムス」研修生として記事を書き始めて間
もなく同社が倒産。資産家の祖母に借金をして5万ドルで同社を買い取った。

 ウィーリーはほとんど死亡記事専門であった同紙を、コミュニティサー
クル・ハイスクールのバスケチーム・ボーイスカウト・園芸クラブ・聖書
研究会等々郡内の広範な人たちの集団・団体の紹介から手始めに、犯罪事
件コーナーを設けるなどし発行部数を倍増させた。

 そんなクラントンに残虐な強姦殺人事件が起きた。被害者はローダ・カ
ッセローという未亡人。1男1女の子持ちである。犯人と目される男は逃走
途次、自動車事故を起こし郡警察に逮捕された。
 殺人事件などこの十年に数えるほどしかない。ウィーリーは関係者の取
材、殺害現場・容疑者の写真を撮るなど大々的に事件を報道した。
 容疑者ダニー・パジットは町中の川中島で禁酒法時代の密造酒で財を成
し、後に銃器密売、麻薬売買、売春・賭博・通貨偽造・保険金詐欺と悪事
の限りを尽くし、警察署長を買収し、島を治外法権化しているパジット一
族の若者である。

 裁判はまず陪審員の選定が前哨戦である。1000人の候補者から12人を選
ぶ。検察側は黒人女性のカリア・ラフィンをぜひ残したがった。敬虔なキ
リスト教信者で、7人の子供を育て、5人が博士号を持っているという知識
人である。一方弁護側も彼女をぜひ陪審員に加えたがった。黒人は概して
被告に同情的であるという理由から。
 陪審員候補者名簿には選挙権登録が必要であるが、この頃は人種隔離政
策脱却後まもなくで、登録者はごく少なかった。検察側も弁護側も唯一人
黒人のカリアを自軍の切り札とみて反応を気にし続けた。
 クラントンは保守的で白人の学校に黒人を受け入れたり、黒人の学校に
白人の子供を通わせたりすることに最後まで抵抗している土地柄だった。
 被告パジット側の買収活動を恐れた判事は裁判中陪審員をホテルに隔離
する措置をとった。

 最終弁論で被告は言った。「俺を有罪にしてみやがれ、いいか、お前た
ち一人残らず仕留めてやるからな」

 最終弁論も終えて陪審協議の結果が出た。予想通り訴因1強姦容疑につ
いては有罪。訴因2の殺人についても有罪。検察側の勝利である。ついで
死刑か終身刑かを問う罪刑協議は何度協議を続けても不調。当然死刑相当
の協議結果が予想されていたが、全員一致の結論が得られない。そうなる
と判事は終身刑と決しなければならない。

 陪審員の協議経過などは一切明かしてはならないことになっているので
真相はわからないが、黒人で敬虔なキリスト教信者のカリアが一人死刑相
当に反対したという説がもっぱらの噂として流れることになった。
 悪党一家を懲らしめられるチャンスに終身刑にしてしまったことでクラ
ントンの町は騒然とする。
 終身刑とはいえ10年すると仮釈放の審査を通れば自由の身である。

ここまでが上巻の話。
                      (以上この項終わり)
  


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