読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

黒木亮の『国家とハイエナ』

2017年02月09日 | 読書

◇『国家とハイエナ』 著者:黒木 亮  2016.10 幻冬舎 刊

   
  

     文字通り本格派国際金融小説である。大学院修士課程(中東研究科)を経て、都市
 銀行、証券会社、総合商社に23年余り勤務した著者が、おそらく自らの体験を踏ま
 えながら描いた国際金融社会のおどろおどろしい実情。フィクションではあるが事
 実を踏まえているという。巻末には参考文献はもとより金融・経済用語集まで
 ついていて、素人には難解と尻込みしそうな国際金融世界の実像もおぼろげながら
 想像できる。筋書きとしては平凡ではあるが事実を踏まえたというだけに迫真的で
 ある。
  国際金融小説は以前「大破局」を読んで、金融という虚業の世界の空恐ろしい振
 舞いに目を剥いたことがある。銀行や機関投資家の素人衆を巧妙なレバレッジ(梃
 子)のからくりで目くらまし、大損させた元ディーラーの告白的小説であったが、
 この『国家とハイエナ』にも同じような印象を持った。
  ただ本の題名が「国家」などと硬い言葉を使っているので、それでなくとも金融
 という世界に疎い者は聞いた途端に身が引けるので、例えば『ハイエナ生き血を吸
 う』とか『笑うハイエナ』とかにした方が良かったのではなどと、お節介者は余計
 なことを考えたりする。

  経済的に破綻しかけた新興国やアフリカなどの最貧国の国債や債券を二束三文で
 買い叩き、元本と利息・ペナルティで何十倍と膨らんだ債権額を欧米の裁判所に訴
 え、勝訴判決をもって外貨準備や原油タンカーなどの資産を差し押さえる。合法的
 な手段で骨までしゃぶるハイエナ・ファンドの実態がここで明らかにされる。

  ハゲタカファンドの主張は明快。「借りた金は返すのが当たり前でしょう」その
 ために国家財政が破綻しても知りません。自業自得ですというのだ。
  (*例えばザンビアの原債権328万ドルが最終的に名目債権額は5,500万ドルに
    なった)
  (*不良債権ファンドの世界的な俗称は「ハゲタカ・ファンド」である。本書で
    は訴訟型不良債権投資ファンドを意味する言葉として「ハイエナ・ファンド」
    を使用しているという。)
 
  本書での主役ハイエナ・ファンドは「ジェイコブス・アソシエイツ」というファン
 ドである。ターゲットとしてはアフリカのザンビア、コンゴ、南米のペルー、アル
 ゼンチンなどの国家財政が破綻に直面している国が登場する。

  国際社会ではデフォルトに直面した途上国のために債務削減問題を解決するため
 の方策(HIPCやMDRI)が合意されたり、日本でも途上国支援のNPO法人が精力的
 に動いたこと(ジュビリー2000運動)などが紹介される。
  一方ハイエナファンドをはじめ金融機関グループはこうした動きに抗して重債務
 貧困国債務削減スキームの成立を阻もうとロビー活動を進める。 

  最終章はアルゼンチンの原債務の16倍もの名目債権の支払いを求めるハイエナ・
 ファンドと債務削減計画賛同債権者と同等以上の支払いを拒むフェルナンデス大統
 領との闘い、そして任期満了に伴う大統領選に勝利した反大統領側とハイエナファ
 ンドと戦線整理の争いに移る。
  暴利に対する世論の批判を恐れたイタリアのファンドの一角が崩れ、債権の15%
 支払いで手を打った。

  2016.3アバマ大統領はアルゼンチンを訪問する。その手土産に長年アルゼンチン
 を苦しめてきた国際的債務支払い問題に決着をつけ政治的レジェンドとしたい意向
 があり、ついに追い込まれたジェイコブズ、アソシエイツは泣く泣く36.9%の返済
 で手を打つところまで追い込まれた。
  しかし結局ジェイコブス・アソシエイツはアルゼンチンを手掛けてから15年かか
 ったものの、投資額の12.3倍のリターンを得ることが出来た。

  作者はエピローグで、サミュエル・ジェイコブスの「ウォールストリートジャー
 ナル」への寄稿文を載せてこの本の主題を明らかにして締めくくっている。
 「歴史上稀に見るBond Warから我々が得た教訓は、明白である。法の支配は、国
 家にとって重荷ではなく、財産である。ソブリン債務の再編は、双方が誠意をもっ
 て話し合うことで、短期間のうちに実現できる。これから債務再編する国家は、結
 局は高くついたアルゼンチンの轍を踏まないことが重要だ。」

                            (以上この項終わり)

 

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『窓から逃げた100歳老人』を読む

2017年02月07日 | 読書

◇ 『窓から逃げた100歳老人』(原題:The Hundred-Year-Old Man Who
                Climbed of the Window and Disappeared)
     著者:ヨナス・ヨナソン(JONAS JONASSON)
     訳者:柳瀬 尚紀            2014.7 西村書店 刊

  

   
素晴らしき出鱈目小説。翻訳者の柳瀬氏は訳者あとがきにこう書く。
   確かにこの小説は壮大で破天荒な筋書きで、笑える。笑いながらも気が抜けない。
 訳者は「出鱈目の楽しさを味わいつつページを繰ってくれるだろう」という。出鱈目の語り術の
 神髄は本当らしい密度で出鱈目を言うところにあるらしい。

  主人公のアラン・カールソンは100歳の誕生祝い直前に老人施設からスリッパのまま抜け出すのだ
 が、バス乗り場でギャング団の一人から怪しげな金4000万クローナの入ったスーツケースを預かり、
 そのまま引きずって逃走を続けることになる。
 アラン自身には歩んできた数奇な過去がある。その人生のあらましが現在の事件の推移と並行して
 回想的に語られる。
  アランには何か大ごとに遭遇した時にもやってみなければわからない、何か起こってもその時は
 その時だ。「何事も成り行き次第」という行動規範がある。

  アランは子供のころから爆薬づくりが大好きで、それが縁で多くの国・指導者と識り合った。の
 ちにアメリカ大統領となるトルーマン、スペインのフランコ将軍、中国国民党の宋美齢、中国共産
 党の毛沢東、原爆の父オッペンハイマー、ロシアの独裁者スターリン、北朝鮮の金日成、これらそ
 うそうたる人たちと交流があったのだから大した人物ということになる。

  世界の大事件、歴史上の人物に遭遇し、「成り行き」だけで危難を脱して来た。毛沢東は妻の江
 青を助けたアランに大いに感謝し多額の褒賞を与えた。アランは親しい友人たちと念願のバリ島で
 13年も気楽な生活を送る。その後生まれ育った故郷の近くに山小屋を買い田舎暮らしを始める。
  しかし子供のころからの爆破物いじりが高じある日山小屋は爆発、アランは老人ホームに収容さ
 れることになったのである。そして100歳を迎える寸前にホームを逃亡する決心をする。トイレの
 スリッパのままで。そのうちどこかで命が果てるかもしれないがそれも悪くないと思いながら。

  4000万クローナの入ったスーツケースを抱えたアランは、その後いろんな人に巡り合い、その助
 けで追跡する警部の目を逃れていくが、その都度彼らを分け前を与えることで仲間にする。近隣の
 鼻つまみ者のユーリウス、ホットドック屋台やのベニー、ベニーの兄ボッセ、湖畔農場の女ベッピ
 ン、犯罪組織の親分ペール、アロンソン警視。以上7人で5000万クローナを分けることになった。
 
  アランを追っていた検察陣は、犯罪証明が出来ないまま関係者全員を、なんだかんだ理屈をこね
 てお咎めなしにしてしまう。
  アランは関係者全員を集め、かつての恋人アマンダが住むインドネシア・バリに渡ろうと決心す
 る。偽の書類を作り空港や軍の高官に賄賂をつかませ、ベッピンの買っている象のソニアまで引き
 連れて。

     バリの海岸を手をつないで散歩する84歳のアマンダと101歳のアランは結婚の約束をする。アラ
 ンは言う。「私にはきみは少々若すぎるように思えるがね」

  ハチャメチャな人生を送ったアランの生涯を、出鱈目話でつづった大人のおとぎ話。出鱈目なが
 ら妙に納得できるストーリーなので楽しめる。

                                   (以上この項終わり)

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冬の花クリスマスローズを描く

2017年02月04日 | 水彩画

◇ 色が変化するクリスマスローズ

 今回の教室での絵は冬の代表的な花、シクラメンとクリスマスローズ。
 シクラメンは家で描いたばかりなのでクリスマスローズに挑戦。
 クリスマスローズは最初白色でも次第にピンクが入り、最後は薄緑にな
 るという三変化の花。
 今回幹事のKさんが自宅から運んできた鉢は見事にその3色が咲き誇っ
 ている。
 背景色は白色の花を浮き上がらせるために、ややマンネリではあるが
 ペインズグレイにした。白色は塗り残しである。花を気にしているう
 ちに背景色がまだらになってうざったい感じになってしまった。

  
      Clester F4

  カメラのいたずらでちょっと色合いを変えてみた。印象が変わってくる。

  


                            (以上この項終わり)



   
 

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冬の伊香保温泉

2017年02月01日 | 国内旅行

久々に伊香保温泉を訪ねて
 ちょうど20年前。子供らが父の日・母の日合体の感謝プレゼントで訪れた伊香保温泉。
割と近いのになぜか足が向かなかった伊香保温泉は、宣伝がうまくないのかあまり世間
にアピールしていない。
 温泉旅行はゆったりまったりというのが基本なので、あわてずにゆっくりと普通列車
で、しかしグリーン車で上野の弁当街で仕入れた好みの弁当を開き、ビールなど飲みな
がら高崎駅に向かう。上越線に乗り換えて30分足らずで渋川駅に着く。

 車窓からは独特の榛名山が見えてくる。伊香保温泉とセットで認識していたが榛名山
は高崎市で、伊香保温泉は渋川市(伊香保町が合併)。伊香保温泉では観光案内には榛
名山、榛名湖はほとんど出てこない。セットで観光開発すれば相乗効果が出ると思うの
だが。

  温泉は金泉(硫酸塩泉)と銀泉(メタけい酸単純泉)がある。元からある泉源は金泉
(黄金の湯)。

   
   榛名山
   

         ホテルの窓(5階)からは上越の山々が見渡せる。

   
   子持山

       
   左から十二ケ岳 中ノ岳 小野子山

       
    赤城山(鈴ケ岳・黒桧山・地蔵岳)

  伊香保温泉の特徴は石段街にあると言ってよい。湯泉神社(伊香保神社)から
 関所前まで365段の石段があり、石段脇に温泉旅館が立ち並び、泉源からの樋を
 通じて湯を引き入れ賑わってきた歴史がある。今でこそ大きな旅館・ホテルなど
 は石段からかなり離れたところに立地しているが、「岸権旅館」など由緒ある旅
 館などはこの石段街にあると言ってよい。
  伊香保神社が標高783m。石段口は標高715mなので標高差は70mはある。
 年寄りにはとても一気には登れない。
 
  伊香保の地名は古く万葉集にも登場し、また温泉地としての歴史も古く武田勝
 頼公のころに石段温泉街が完成したと言われている。この地を愛した文人墨客は
 多く、竹久夢二をはじめ野口雨情、萩原朔太郎、徳富蘆花、夏目漱石などが訪れ
 ている。

   

    石段街口脇には公園がある。見晴らしの良い池は当然ながら凍っていた。 

    

      まだハワイ王国がアメリカに併呑される前、ここ伊香保に駐日ハワイ公使ロバート
 ・ウォーカー・アルウィンの別邸があった。木造の簡素ながら快適そうな建物で、ガ
  ラス窓も当時の手作りガラスで趣がある。

  

    

     ここ伊香保には三国街道の関所があった(伊香保口留番所)。復元されている。

  

  

         

  
     御多聞に漏れず外国観光客が多い。

  
  石段にはそこが何段目かを記してある。
  今一つ伊香保の特徴は関所の役番を務めた名主(旅館主)に十二支の干支
 を割り振った名残が残っていること。旅館の前の石畳にその干支が再現され
 ている。(石段は昭和60年に御影石で再建されきれいである)

         

            

            

            

  
  伊香保神社の社殿です。左手の道を行くと湯元・源泉地へ。

  
  かなロに急勾配です。

    
  石段の由来が記されています

  
  湯が温泉配管樋を通して滔々と流れるさまが見られます。

                       (以上この項終わり)
    

  

  

  
 
 

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