読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

黛まどかの『引き算の美学 物言わぬ国の文化力』

2022年11月15日 | 読書

◇『引き算の美学 物言わぬ国の文化力』

   著者:黛 まどか  2012.2 毎日新聞社 刊

  
       
   俳人黛まどかの書下ろし(一部過去の寄稿を含む)文化論。
   筆者が言う「引き算」とは何か。一言で絵言えば、日本のあいまい文化。
  日本国内では美徳であっても白黒明確を求める合理主義の欧米では悪弊、
  不可解とされる日本特有の文化のことである。
   しかしながら日本が世界に誇る伝統文化の多くはこの「引き算の美学」
  の上に成り立っているというのが筆者の指摘である。
   
   筆者は諸外国での見聞を経て日本人の引き算、省略、余白から生まれる
  文化の生み出した力を高く評価する。もちろん俳人としての感性で自然へ
  の畏怖・畏敬を基盤とする日本文化の特性を古人の和歌・俳句などから証
  明しているのであるが、韓国釜山からソウルまでの五百キロ踏破、北スペ
  イン・サンティアゴ巡礼道八百キロ踏破など、異国の人々との交流を通じ
  て肌で感じた日本人の文化的特性に思いを致した文化論であることに感銘
  を受けた。

   言わないこと、省略することによって育まれる余白の豊饒さを私たちは
  忘れてはならない。また日本人と自然が実にのっぴきならない深い関係に
  あり、日本人が日本人たる所以はこの自然観にあるのではないかというの
  だ。

         俳句を主軸とする日本文化論であるが、同種圏内にある茶道、華道など
  についても共通する型の解説があり勉強になった。
   「茶道、華道など、道のつくものは「構え」から出発する。構えとはあ
  らゆる動作、今後起こったり、あるいはすでにあったものを含め、すべて
  の動きを「縮めた型」である。そこから始まりそこに終わる構造を持った
  一瞬の動きのことである。日本で稽古というのはこの「構え」を身につけ
  ることだ」(「縮み志向の日本人」著者李御寧から)
   また東日本大震災で被災地を訪問した際に、思わぬ震災に遭遇した多
  くの人たちの、災禍を乗り越える強靭な精神力を目の当たりにし、日本
  人の持つ自然に対する畏怖と静かな諦めの中で他者との共存、自然の一
  環としての存在という自覚を持つ日本人の特質や美徳が濃く残っている
  ことを確認したと語っている。
                       (以上この項終わり)

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