◇『ラスト・チャイルド(上・下)』(原題:The Last Child)
著者:ジョン・ハート(John Hart)
訳者:東野 さやか 2010.4 早川書房 刊 (ハヤカワ・ミステリー文庫)
この小説は文句なしに面白い。2008年『川は静かに流れ』でアメリカ探偵作
家クラブ賞最優秀長篇賞、英国作家協会賞最優秀スリラー賞を受賞している。
面白さのポイントは3つある。第1点は主人公のラスト・チャイルド(双子で残
された一人の子)ジョニーの幾多の困難にめげない妹アリッサ探索力である。ジョ
ニーは警察の捜索が手ぬるいとばかりに自力で妹を探す。警察が調べた性犯罪常習
犯の最近の日常行動、近隣全ての住民の日常をも調べ上げる。揚句、キリストは助
けてくれないと先住民の呪術に頼り魔力を得る儀式を行ったりする。
第2点は少女誘拐事件担当班の刑事ハント。捜索成果ないまま苦境にありながら
ジョニーを暖かく見守る。始末が悪いことにジョニーの母キャサリンに心を寄せて
おり、同僚の刑事ら注意されながらも陰に陽にこの家族の力になろうとする。実は
それが因で妻は家出し、息子には白い目で見られている。
第3点は物語ののっけから車両事故を装う殺人事件があり被害者がジョニーに
「あの子と会った」と言ったり、逃亡した囚人がこの被害者を看取ったり、第2の
誘拐事件が起き被害者少女ティファニーによる犯人射殺、逃亡囚人の殺害など不可
解な事件が連続的に起きること。のちのち回収される布石と思われるが、スリリン
グな事態が連続して展開されるので息が付けない。
1年前。ジョニーの妹アリッサは下校時に父の迎えが遅れたことから歩いての帰
り道で車に誘拐された。妻になじられた父はこれ以上の苦しみと罪悪感には耐えら
れないないと家を出た。警察は捜索チームとボランティアの助けで徹底した捜査を
続けたがアリッサの行方は杳として行方が知れない。こ れがこの作品の核心の事件
である。
傷心の母キャサリンに抗不安薬、抗鬱薬などの薬剤手当を口実にケン・ホロウェ
イという町の有力者が言い寄ってきた。当然反抗するジョニーにケンは暴力をふる
う。
ジョニーは目星をつけていた性犯罪常習者ジャービスの家を強襲するが逆に手痛
い逆襲を受ける。そこにはジョニーの妹ではなく第二の誘拐事件の被害少女が匿わ
れていて、ジャービスはこの少女に銃で撃たれ死ぬ。
ジョニーは病院で 治療を受けながらハントから尋問を受ける。
キャサリン宛に段ボールの箱が届いた。中には猫が1匹。背筋が折れた状態で。
そして「お前は誰も見ていない。何も聞いていない。その口を閉じていろ」という
手紙が入っていた。一体誰が…。
「ハント助けて」キャサリンはハントに電話するが通じない。(以上が上巻)
(以上この項終わり)