リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バッハのシャコンヌ(4)

2008年07月23日 15時04分49秒 | 音楽系
バッハのシャコンヌはオリジナルのヴァイオリンでの演奏以外に、ピアノ、チェンバロ、ギターなどに編曲されることもあります。もちろんリュート用に編曲されることもあります。残念ながらバッハの時代のリュート編曲はありませんが、現代では、ホプキンソン・スミスやナイジェル・ノースがいいアレンジで録音しています。

シャコンヌを編曲するときに、考えなくてはいけないのは、バスの動きです。ヴァイオリンという楽器の制約上バッハは全てのバスは書かずに、暗示的に旋律のラインに埋め込んだり、省略したりしています。でもバスの動きの上に書かれているのは明らかです。というか全てのこの時代はバスが大変重要な働きを持っています。バスをどう扱うか(バスのラインをどう書いていくか)は、無伴奏チェロ組曲を編曲するときにも同じく出てくる重要な問題です。

リュート曲に出てくるシャコンヌの場合、バスの主題は単一であることが多いのですが、(中にはロンド形式みたいなのもありますが)バッハのシャコンヌでは複数の主題が設定され、また扱いがあまり厳格でないところもあります。でも前半部分はかなり厳格な主題の扱いが見られ、4小節の主題が2つずつペアで扱われ進行していきます。すなわち音程の飛躍がある主題が4回繰り返され、次の半音で下降する主題が2回、また飛躍主題2回、半音下降主題2回という具合です。

難しいのはこうしたバスがヴァイオリンの音符からは少し見えにくいことです。もちろんきちんと演奏しているヴァイオリニストであれば、こうしたバスの変化は意識しているはずですが、他のもっと和音が沢山出る楽器に編曲する場合、バスの付け方次第で、バッハが意図していたバスがわからないまま変なバス(というか単なる低音)を着けてしまい、バスを理解していないと言うことがバレてしまったような編曲もあります。ま、こうしたことがバレないようにするには、ヴァイオリンの音のマンマを弾くという手があります。何も足さず何も引かずという感じです。でもこれだとリュートであってもちょっと音が少なくてさみしくなるので、やはりリュート的なバスはつけたい、となると明示されていないバスをどうするかという問題に突き当たるのです。