リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

BWV1003のリュート編曲(19)最終回

2024年03月05日 17時47分04秒 | 音楽系

アレグロは比較的リュートに向いている音の並びだと思います。何カ所かバスになる音をオクターブ下げたり、オクターブ下の音を重ねたり処理で事足ります。むしろあまり余計な音を足さないようにすることの方が重要かも知れません。

とはいうもののこの曲はかなりの速度で弾かなくては形になりません。3小節目とか17小節目のフレーズはバロック・リュートの弦の都合にも合致していて、かなりの速度で軽快に弾けます。しかし3小節目のフレーズのホ短調転調版である後半27小節目のフレーズは前半と打って変わってなかなか大変です。おまけに3拍目からも速いフレーズが続きます。速いのでできるだけひとつのポジションで弾きたいところですが、どうしても3拍目以降はポジションを変えなければいけません。ものすごく手の大きな人が68cmくらいの楽器で弾けばポジションを変えなくてもいいかも知れませんが。

この部分を前半と同じ音型でホ短調に移したものであれば簡単に無理なく弾けるのですが、こういう改変はいけないんでしょうねぇ・・・バッハは結構微妙にかつ念入りに後半の冒頭を前半と変えていますから。はい、そんなことはしてはいけません。

冒頭でリュートに比較的向いている音の並びだとは言いましたが、もちろんヴァイスのアレグロやプレストの楽章のように速く弾くのに都合よく音が並んではくれていません。しっかり練習を重ねれば弾けるのですが、ほとんどの音がリュートの「スジ」から離れてならんでいるので、いわば異形のリュート曲という感じです。これは本曲の全ての楽章に言えることです。

ヴァイスの曲は必ずリュートという枠組みに入っていますが、バッハをリュートで弾こうとするとどんな曲でもリュートの機能からはみ出した音型やフレーズが出て来るので苦しみます。

本曲は原曲がヴァイオリン曲で同じ弦楽器曲の編曲になりますのでまだいいのですが、これが鍵盤楽器用の作品(いわゆるリュート曲ならBWV996-998)ならもっと大変です。自筆譜の冒頭で「リュートのため」しっかりかかれているBWV995ですらリュートという楽器の機能の枠組みから外れている箇所があるくらいですから。

これで曲がつまらないものだったら誰も弾かないでしょうけど、ここまで苦労して弾こうとするのはバッハの作品が圧倒的な価値を持っているからです。


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