昨日の日経新聞の例のコラムにまたリュートの絵がありました。もっとも私は「リュートの絵」として見てしまいますが、一般的には「道化師の絵」でしょう。
17世紀のオランダの画家、フランス・ハルスによる「リュートを弾く道化師」です。
日経新聞のこのコラムにリュートが描かれている絵が出てくるのは鬼門です。今回も何かやらかしていたらまた編集部にメールか、と目を皿にして記事を読みましたが、楽器については何も書かれていないので今回はセーフでした。
コラムではこの絵はカメラ・オブスクラという機器を使って描いたという説があることを紹介しています。カメラ・オブスクラというのはラテン語で「暗い部屋」意味することばだそうです。
箱に小さい穴をあけて箱の中に像を写します。こんな原理です。
ウィキによりますと、
原始的なタイプのカメラ・オブスクラは、部屋と同じくらいのサイズの大きな箱を用意し、片方に小さな針穴(ピンホール)を開けると外の光景の一部分からの光が穴を通り、穴と反対側の黒い内壁に像を結ぶというものであった。画家がこの箱の中に入り、壁に紙を貼り、映っている像を描き写すことで、実際の光景とそっくりの下絵をつくるという使い方がされた。
とあります。同コラムの筆者はこの絵はこうした技法を使って描かれたのではといいます。でもそれにしてはリュートのネックの仕込みが少しおかしくまた少し反っているように見えます。
ルーブル美術館蔵のシャルル・ムートンの肖像画は写真みたいに正確にリュートが描かれていますが、これこそカメラ・オブスクラを使って描かれたのかも知れません。
こちらは1976年にオランダ、デンハーグのへメンテ博物館のミュージアムショップで購入したプリントですが、原画はルーブル博物館の作品をもとにしたと言われている銅版画です。リュートの形状や弦の描写はまるで写真撮影したかのように完璧です。ムートンの左手もハ長調の和音を正確に押さえていて今にも6コースのド、3コースのド、2コースのミ、1コースのソの和音が聞こえて来そうです。ただ少し不可解なのは右手親指が7コース(ソ)を触っていることで、これはちょっと残念。6コースに触れていて欲しかったです。中指、人差し指の位置は正確に描かれているのですが。それから左手小指が2コースの4フレットのファ#を押さえているように見えますがこれは弦を押さえずに上に置いているだけのはずです。画家や銅版画作者はそこがよくわかっていなかったんでしょう。実はルーブル博物館の原画はまだ見ていませんが、そこらあたりはどうなっているんでしょう?
先生の鋭い演奏家ならではの視点だと思いました。
やはり、精密な絵とはいえ、そこは演奏家や愛好家でもない画家であって、そこまでの細かさ、精密さまでは描き切れてないのだと推察します。
物事には2面性あり、立場によって関心や興味の視点、拘りが違うのだと思うのです。全部完璧な当時の絵画って無いんでないでしょうか。
ロゼッタの模様にしても、正確に描き切れないでしょうし、フレットが二重になってるところまでは正確でも、演奏者の指の位置が曖昧だったり。
ですが、やはり当時の生き証人たる絵には変わりないので、背景、部屋の様子、家具、人物、備品、椅子、机などなど、様々な物を知る機会になりますよね。
私はあまり固執せずに、当時の絵を見ながら、絵が何を語りかけてくるのか楽しみです。
カラヴァッジョとホルバインの絵のリュートは明確にダブルフレットが描かれていますがいずれも16世紀の楽器です。1776年の著書でトマス・メイスはダブルフレットを否定していますので、少なくともバロック中期以降ではダブル・フレットが使われなくなっていたようです。もっともリュートが描かれている全ての絵を詳細に検討すればもっと正確な情報が手に入るとは思いますが。