続きます。
私の親父達の話を聞いていた男は言いました。「空き部屋があるのでしたら、貸してくれませんか」と。
当時、私は仙台の不動産屋を周り、家賃を大幅に下げて何とか空き部屋を埋めてました。私の親父はそれが面白くない。私が子供の頃から私に対抗心を持っていたのです。だから自分の力で空き部屋を埋めたいと思ったのでしょう。
こう言う場合、不動産屋を通して話をした方がある程度安心なのですが、不動産屋への金額的負担を考慮し、無謀にもこの男の話を全面的に信用して個人間で賃貸契約してまいました。いやいや痛恨でした。
この男はタクシードライバーをしていたが、腰痛で続けられなくなり退職。現在は生活保護で暮らしている。スポーツクラブに通っているのは腰痛回復の為と宣っていました。
仙台では生活保護は全然珍しくないです。逆に生活保護の方が豊かに生活出来ます。医療費もタダですから。当時、仙台のタクシー運転手の手取りが11万円程度と言われていましたからね、所得は安定してます。
仙台では生活保護以下の所得の人が大勢います。皆、貧乏なんです。だから普通のサラリーマンに貸すより家賃の取りっぱぐれが無い。私の親父は逆に好都合と思い貸すことにしました。独断で。本当に私の親父は困った男です。
さて、その男は身長170cm弱。角刈り。中肉。そして顔が凶相です。マトモな奴の顔ではないです。
60代の男と二人で引越し作業をしてましたが、その60代の男も「私にも部屋を貸してくれないでしょうか」言います。
私は「来月出る予定の人がいる」と言いましたが、「すぐ貸して欲しい」と言います。「いやいや、出てからじゃないと貸せない」と言っても、「すぐ貸して欲しいを」繰り返します。「この男、おかしいのでは」と思いましたが、「部屋が空いたら連絡する」として話を切り上げました。一抹の不安を覚えて。
私の母親も不信感を持ちました。親父に「あんな顔した奴に貸すのか」と落胆。長年新聞販売業をしてきたから人を見る目が母親にはあります。親父は仕事をせずパチンコ三昧の日々を送ってきたから、人を見る目が全然ない。他人を簡単に信用する。それで何度もトラブルに合ってます。母親もトラブルを予感した様です。
私の家は3階建てのマンションです。私らは3階に住み、その男は2階の202号室に入居。そして3日後、予想通りトラブルが始まりました。「201号に入居している男が夜、酒を飲んで大声を出して暴れている。隣の家の人も『煩いぞ』と騒いでいる。何であんな人間を入れているのだ。部屋から出した方がいいぞ」と、あの男が言ってきたのです。
その日の夜、私は1階の店舗で作業してました。全然、今までそんな声は聞いていません。近所の人もです。それに201号室の人間は介護職でとても優しい性格です。そんな事する訳ありません。
私は思いました。引越しを手伝った60代の男を入居させる為に嘘を付いていると。そしてこんな見え透いた嘘を付くこの男の神経を疑いました。やはりマトモじゃないと。
そして今度は不動産屋から電話が。何と201号室に入居している介護職の方が、202号室のあの男に襲われたと言って来たんです。
続く。