令和3年10月8日
岸田首相所信表明演説、成長・分配へ政策総動員
コロナ対策に万全
衆院本会議で所信表明演説をする岸田文雄首相=8日午後、国会内
岸田文雄首相は8日午後の衆院本会議で、内閣発足後初の所信表明演説を行った。
首相は新型コロナウイルス対応に万全を期す考えを表明。
「成長と分配の好循環」実現に向けて成長・分配戦略を「両輪」に掲げ、政策を総動員する姿勢を示した。中国を念頭に経済安全保障政策を推進するための法案策定を明言。
看護・介護分野の収入増を目指す方針も打ち出した。
首相は演説の冒頭で「喫緊(きっきん)かつ最優先の課題である新型コロナ対応に万全を期す」と述べ、ワクチン接種の加速化や経口治療薬の年内実用化を唱えた。
国民への説明を尽くす考えを示すとともに、司令塔機能の強化や人流抑制、医療資源確保のための法改正などを挙げ、「危機管理を抜本的に強化する」と訴えた。
コロナ禍で打撃を受けた事業者への給付金や、非正規、子育て世帯への給付金などの支援も打ち出した。
首相は、自ら提唱した「新しい資本主義」について「成長と分配の好循環とコロナ後の新しい社会の開拓。これがコンセプト」と説明。
「成長も分配も実現するために、あらゆる政策を総動員する」と表明した。「新しい資本主義実現会議」を創設し、具体像の検討を進める考えを示した。
新しい資本主義実現の「車の両輪は、成長戦略と分配戦略だ」と指摘。成長戦略の柱の一つに経済安全保障を掲げた。
中国を念頭に戦略物資の確保、技術流出防止に取り組むとし、「強靱(きょうじん)なサプライチェーンを構築し、わが国の経済安全保障を推進するための法案を策定する」と言明した。
分配戦略の柱の一つとして、コロナや少子高齢化を背景に「看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていく」と約束。
東日本大震災の被災地福島の復興・再生への決意も示した。
外交・安全保障分野では、中国、北朝鮮への対処を念頭に、2013年に策定した国家安全保障戦略改定などに取り組むと表明。
中国については「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」としつつ「共通の諸課題について協力する」との姿勢も示した。
被爆地広島出身の首相として「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たす」と述べた。
憲法改正については「(各党が)建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待する」と語った。
◇所信表明演説ポイント
・コロナ対応、喫緊かつ最優先課題
・成長・分配の好循環実現へ政策総動員
・新しい資本主義実現会議を創設
・経済安全保障政策推進へ法案策定
・看護・介護などの収入増目指す
・非正規、子育て世帯に給付金支援
・国家安保戦略改定に取り組む
所信表明演説要旨
岸田文雄首相の所信表明演説要旨は次の通り。
【はじめに】
新型コロナウイルスとの闘いは続いている。
最優先課題である新型コロナ対応に万全を期す。
国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を行うこと、常に最悪の事態を想定して対応することを基本とする。
【新型コロナ対応】
希望する全ての方への2回のワクチン接種を進め、3回目の接種も行えるよう準備をしていく。
経口治療薬の、年内実用化を目指す。
司令塔機能の強化や人流抑制、医療資源確保のための法改正、国産ワクチンや治療薬の開発など、危機管理を抜本的に強化する。
大きな影響を受ける事業者に対し、地域、業種を限定しない形で、事業規模に応じた給付金を支給する。
非正規、子育て世帯などを守るための給付金などの支援を実行していく。
【新しい資本主義の実現】
新自由主義的な政策は富めるものと富まざるものとの深刻な分断といった弊害が指摘されている。
「新しい資本主義実現会議」を創設し、ビジョンの具体化を進める。
車の両輪は、成長戦略と分配戦略だ。
成長戦略の第1の柱は科学技術立国の実現、第2は「デジタル田園都市国家構想」、第3は経済安全保障だ。
強靭(きょうじん)なサプライチェーンを構築し、わが国の経済安全保障を推進するための法案を策定する。
第4は人生百年時代の不安解消で、全世代型社会保障の構築を進める。
分配戦略の第1の柱は働く人への分配機能の強化、第2は中間層の拡大と少子化対策、
第3は看護、介護、保育などの現場で働く方々の収入増、第4は財政の単年度主義の弊害是正だ。
【外交・安全保障】
「自由で開かれたインド太平洋」を推進する。
国際社会の人権問題にも取り組む。
さらなる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化に果敢に取り組んでいく。
外交・安全保障政策の基軸は日米同盟だ。
米軍普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設を着実に進める。
日朝国交正常化の実現を目指す。拉致問題は最重要課題だ。
全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく全力で取り組む。
中国とは、安定的な関係が重要だ。
主張すべきは主張し、対話を続け、共通の諸課題について協力していく。
ロシアとは、領土問題の解決なくして、平和条約の締結はない。
首脳間の信頼関係を構築しながら、平和条約締結を含む日ロ関係全体の発展を目指す。
韓国は重要な隣国だ。
健全な関係に戻すためにも、わが国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく。
【新しい経済対策】
新たな経済対策を策定するよう指示した。
総合的かつ大胆な経済対策を速やかに取りまとめる。
【おわりに】
憲法審査会で、各政党が考え方を示した上で、与野党の枠を超え、
建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めてもらうことを期待する。