昨日、前・財務大臣の塩川正十郎の講演を聴きに行って来ました。そのなかで印象に残ったのが、在任当時に歳出削減に挑んだ時の話でした。
農業委員会というものがあるのをご存知でしょうか。GHQが行った戦後の農地解放の際、せっかく小作農に渡した農地が、勝手に売却等されないよう、全国の市町村に設けられた委員会です。この農業委員会の許可がないと、農地を他の用途に変更することは出来ません。当初は、それなりの役割をもった行政組織であったことは否定しません。
しかし、戦後半世紀が経ち、街中では農地は激減し、まったく農地の存在しない市区もあります。東京ですと23区のうち、千代田、品川、港など5区で既に農地は存在しません。また世田谷、練馬などを除けば、大半の特別区では農地はもはや趣味の園芸に近いものとなっています。
ところが、そのように農地がほとんど存在しない都市部においても、農業委員会はしっかり残っています。当然そこには国から補助金が支給されています。一人当たりにすれば微々たるものですが、全国に支給される補助金は、3千億円ほどになるそうです。ちなみに農業委員会のメンバーは、元市議会議員であったり、地元の名士であったりすることが多く、ある種の名誉職に近いものでもあるそうです。
そこで塩川大臣(当時)が農業委員会への補助の削減を命じたところ、凄まじい抵抗に出くわしたそうです。この制度は法令のみならず、省令、政令等で決められたもので、農地が少しでもある以上、補助金の支給は適正、適法なものであるとの猛抗議を受けるはめに陥ったそうです。やる気だった塩川大臣をはじめ財務省の若手官僚も辟易するほどの抵抗だったとか。
しかし、冷静に考えれば農地の保護、維持を目的とした農業委員会は、もはや歴史的役割を終えたと私は考えます。それどころか、土地開発、都市計画の妨げにさえなっているのが実情です。農業の将来を考えるなら、農業委員会ではなく、農業を実際に営む人を育成するべきでしょう。
塩川氏の話では、このような改革は政治家が率先して取り組むだけでは駄目で、行政と世論の後押しがないと、なかなか出来るものではないそうです。財政赤字を真摯に考えるなら、歳入の確保すなわち増税も必要ですが、歳出の削減にも必死で取り組む必要があるはずです。長年の特権にしがみつく抵抗勢力との戦いは、今後の日本の将来を考えると、決して諦めてはいけない根気を要する戦いだと腹をくくる必要があるでしょう。