ヌマンタの書斎

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カラシニコフ自伝 エレナ・ジョリー

2011-01-20 12:31:00 | 

戦争と革命の20世紀にあって、世界中で最も愛用された銃器が通称AK47、カラシニコフ自動小銃であることは間違いない。

その数は6000万丁とも7000万丁とも言われる。ロシアで生まれた武器ではあるが、世界中の工匠で模造されただけに、その正確な数は誰にも分らない。共産シナで模造されたものを数に入れれば、おそらく延べ1億を超えるカラシニコフ自動小銃が世界中で使われたと思われる。

その魅力は、なんといっても堅牢さにある。多少の砂や埃が入っても、弾が発射できる。乱暴に扱っても、滅多なことでは壊れない。たとえ壊れても、構造が簡単で、修理も容易い。戦場でこれほど信頼できる武器はない。

だからこそ、世界中の戦場でカラシニコフは使われた。命を奪い、奪い合う戦場では、なによりも武器の信頼性が求められる。その信頼に、これほどまでに応えた武器は滅多にない。だからこそ世界中に愛好者があふれた。

数年前に朝日新聞の記者が、カラシニコフ氏にインタビューをしたことがある。新聞にも掲載され、また本にもなった。私も目を通したが、朝日の記者が「貴方の設計した銃が、世界中で人の命を奪っていることをどう思いますか?」と訊ね、カラシニコフ氏が答えに窮している様を勝ち誇ったように描いているのが印象に深い。

バカだね、この記者は。答えに窮しているのではなく、理解不能だと呆れているのだよ。平和を守るためには武器が必要だとの認識が欠落している。日本の常識は、世界の非常識と云われても仕方ないと思うね。

ロシアの民はスラブ民族だ。ご存知の方も多いと思うが、古来よりギリシア、ローマでは奴隷をスラブと呼んでいたが、これはロシアの民が奴隷として売り買いされることが多かったことに由来する。

広大なロシアの地は、その地を統一し、外敵から守られるようになったのはかなり後のことで、常に侵略される非業の地でもあった。男たちは殺され、女子供は奴隷として売り払われた。

広大なユーラシア大陸の中央部は、常に強大な騎馬民族が支配しており、その西方に位置するロシアの大地は簒奪の地でもあった。ロシアの民が、常に外敵を恐れ、外敵と戦うことを天命の如くに思うことを朝日の記者は分っていないのだろう。

だからこそ、中学校さえ満足に通えなかったカラシニコフ氏の考案した銃がロシア軍に採用された。故障が少ないが故の信頼性が、命を守るための戦いに必要不可欠であった。

もっとも、カラシニコフ氏もロシア政府も、そのAK47が自分たちに向けられるようになることまでは、考えていなかったことが表題の本から窺われる。

旧・ソ連の最高議会の評議員でもあったカラシニコフ氏は、自分は愛国者であると断言する。その愛する祖国のため、独学で工学を学び、ライバルたちと研鑽し、仲間たちと力を合わせて名器AK47を作り上げた。

ソ連が崩壊してなお、その愛国心に蔭りが生じることはなく、優れた武器を設計し、祖国防衛に役立つことこそ我が天命と断言する。

武器がなければ戦争も起きないなどと、戯言を弄する平和愛好市民たちには認めがたい考えでしょうけど、これが世界の常識です。平和を守るために優れた武器を作ることに、生涯を捧げた一市民の人生を知ることも有意義だと思いますよ。

コメント (1)
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