ヌマンタの書斎

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軍鶏 橋本以蔵(原作)たなか亜希夫(作画)

2011-01-18 14:59:00 | 

読者を無視するな。

表題の漫画は、現在原作者と漫画家が争っているため、連載が中断されている。実に腹立たしいというか、残念でならない。なぜなら、おそろしく魅力的な漫画であったからだ。

東大へのストレート合格間違いなしと言われた優等生が、ある日突然に両親を殺めた。親殺しのレッテルが貼られたひ弱な主人公は、少年院に送られて悲惨な日々を送る。

だが、そこで覚えた空手にのめり込んだことが、彼の人生を一転させた。体格も身体能力も人並みの主人公だが、人並みはずれて優秀な知能と、生き延びるための執念が彼を、おそるべき空手家に変貌させた。

しかし、親殺しのレッテルは重く、少年院を出た主人公は、裏社会で生き延びるしかなかった。そんな彼の目の前に現れた日本空手界の期待のエースが、彼を裏社会から日の当たる世界へ引きずり出す。

決して正義のヒーローではなく、むしろ希代の悪役でさえある主人公は、その才能ゆえに裏社会に埋もれていることを許されず、好むと好まざるに関らず、明るい日の下に引っ張り出される。

やがて主人公は香港に渡り、中国拳法を身につけ、更にその凶悪性に磨きをかける。一方、世界中からその才能を羨望される天才舞踏家は、この主人公を見て天啓を受け、格闘家へと転進し、主人公との対決を予感させる途中で作品は中断された。

予めお断りしておくと、私は具体的な状況について何も知らない。ただ、長年この漫画を読み続けてきたので、それとはなしに思うところはある。

まず、第一に考えられるのは、漫画家である田中氏の技量の向上だ。元々絵の上手い漫画家ではあったが、ストーリーに面白みが少なく、それゆえこの原作の作画者としての場を得たことで第一線に躍り出た。

そして長年描き続けるうちに、原作者とは別の想いを作品に、とりわけ主人公に対して抱くようになったことが窺われる。だからこそ、原作者と漫画家の争いが起きたのではないかと想像できる。

これは原作者である橋本氏にとっては許されざる出来事なのだろう事も分る。この作品の骨格、魅力的な主人公の人物造形などは、間違いなく原作者の才能に帰する。だから怒るのも当然だろう。

ただ、この作品、途中から方向性が変っているのではないか?長すぎるが故のものだとは思うが、当初のものとは大分変ってきたのも事実だ。

それが原作者独自のものなのか、あるいは漫画家のアレンジが効いたのか、私にはそこまでは分らない。私に分るのは、漫画家の田中氏はその後、歌舞伎や舞台に対する関心が強まり、そちらの作品を独自に描くようになったことだけだ。

これは想像でしかないが、もしかしたら担当する編集者が代わったのではないか。はっきり分っているのは、この漫画を担当している編集者が漫画家と原作者のコントロールに失敗したことだ。

どこの出版社でも、漫画は稼ぎ頭であり、売れる漫画を育てるためには、優秀な編集者の存在が極めて重要となる。単になる原稿取りではなく、編集者は漫画家の影のプロデューサーであり、アシスタントでもある。優秀な漫画家が育つには、優秀な編集者のサポートが必要不可欠なのが、今日の漫画業界だ。

この作品は、この十年ずっと注目していた傑作だけに、このままフェードアウトして欲しくない。なんとか、復活して欲しいものです。

コメント (4)
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