作家という仕事は天与の才が必要なのだろう。
表題の作品は、私が十代の頃には目にしていた。妹たちが持っていた漫画雑誌に連載されていたので、読んでいたのだが、どうも途中が抜けているらしく、それが気に入らずに読むのを止めてしまった。
その後、少女漫画に対する興味が薄れ、そのままになっていたが、忘れることはなかった。それだけ印象的であったのは確かだし、出来たらまとめて読みたいとも思っていた。
ところが困ったことに、部分的ならば目にする機会はけっこう多かった。私が長期にわたり入院していた病院の談話室にも、誰かが置いていった漫画本が置いてあり、私が読み損ねていた部分の巻がおいてあったりしていた。
あの頃は、まだ長時間歩くのはきつかったので、談話室の漫画本にはけっこう世話になった。ところが、面白い漫画に限って全巻揃っていない。おかげで欲求不満はたまる一方だ。
これは早期の退院を促す病院の陰謀に違いないと、私は憤慨していたが、看護婦さんたちは笑って、とりあってくれなかった。
退院して、大分落ち着いてから、ようやく漫画喫茶で全編を通して読むことが出来た。まず、名作といっていいと思う。ちなみに20年前だと漫画喫茶は珍しく、都内では大久保に一店あっただけ。わざわざ一時間かけて通ったのだから、私も暇人だ。まァ、病気療養中だからこそ出来たことだ。
驚いたのは、その後ある雑誌のインタビューで、作者自身がこの作品をバラバラに描いて、後で辻褄を合わせたと語っていたことだ。
たしかに精読してみれば、小さな瑕疵はあるのかもしれないが、私はまったく気がつかなかった。これを天与の才と言わずして何と呼ぶ。
私には最初から、全体像、ストーリーの骨格が出来上がっていたとしか思えない。その意味で、この作品には完敗です。未読の方がいらしたら、是非チャレンジして頂きたい。経緯はともかくも、バンパイアものの変り種としても一級の面白さがあると思いますよ。