技術の進歩に助けられた。
ABSという言葉をご存知だろうか。アンチロック・ブレーキング・システムの略称として知られている。車を走行中にブレーキを強く踏むと、タイヤがロック(固定)されてしまう。
このタイヤがロックされた状態で、車は滑るように動いていると、ハンドルが効かない。つまり運転者の意思とは無関係に車が走る状態となる。これは極めて危険な状態だ。
以前は、タイヤがロックしないようにブレーキを断続的に踏んで、スピードを落とすことを推奨された。この技術はポンピング・ブレーキといい、かなり難しいテクニックだ。
率直に言って、素人ドライバーには、いささか高難度すぎる運転テクニックだ。だが、いざとなれば有益なテクニックだと分っている。
大学生の頃、スキーに行くと、最大の問題は雪道を安全に走ることだった。なにせ滑りやすい雪道である。ブレーキをうかつに踏むと、あっという間にタイヤがロックしてしまう。
車は私の意を離れて、勝手に雪道を滑っていく。無理なハンドルを切れば、車はクルリと回転してしまう。そして勝手に止まって、後続車に追突される危険性がある。
それを避けるためにも、雪道ではブレーキを断続的に踏む、通称ポンピングブレーキのテクニックが必要となる。ところがこれが難しい。だからエンジン・ブレーキと併用しつつ、なるべくスピードを出さないことが雪道では重要となる。
このポンピングブレーキを機械的に可能にした技術が、いわゆるABSなのだ。私が20代の頃、実用化されて現在は多くの車に装備されている。今回は、このABSに助けられた。
二月の三連休は、当初仕事の予定が入っていた。ところが急なキャンセルを受けて、ぽっかりと日程が空いてしまった。そこで知人と草津温泉に再び行くことにした。
仕事の流れで、今回は長野、諏訪方面から信越道を使って草津入りすることにした。1月に比べて飛躍的に積雪量は多く、高速はともかくも144号線を走るときは、雪道に神経を尖らせた。
やがて草津に近づき、見覚えのある風景となると気が緩み、少しスピードを上げて快適に山道を走る。ここまで来ると、ほとんど除雪がされているがゆえでもある。
ところがカーブを曲がった先は、昨日の雪がまだ溶けずに残っていた。あっという間にハンドルをとられ、車はふらふらと蛇行した。まずいことに緩やかに下った道で、アクセルから足を離した程度では、スピードは落ちない。
そこでブレーキを踏み込んだ。もちろんABSが効くことは承知していた。ガッガッガッと反動はあるが、確実にャ塔sングしていることが分り、目に見えてスピードが落ちてきた。よし、このままスピードダウンだと思っていたら、次の急カーブが迫ってきた。
このスピードで上手く曲がれる自信はない。なにせ、まだタイヤが滑っている状態なのだ。このままでは山腹に衝突は免れない。そこで私は左側の山側に空き地を見つけると、迷わず左にハンドルをやんわりと切った。
雪の中に車は突っ込み、軽い衝撃とともに車は止まった。思わず安堵のため息が出た。幸いにも私の車は、簡単に脱出できた。これはABSブレーキのおかげで、速度が落ちていたからこそである。後続車が心配そうに覗きながら、過ぎ去って行く。
車を降りて、改めて路面を確認すると、雪の表面が凍りはじめていた。まだ日は高いと思っていたが、既に夕刻が近く、路面凍結が始まっていたのだろう。それに気がつかなかった私のミスだ。
その後、草津の宿に着くまでに、雪に突っ込んで出れなくなった車一台、衝突して動けなくなった車を二台見かけた。私は幸運だったのだろう。
いや、それだけではない。やはりABSがなかったら、私は凍結した路上をクルクル回って、大きな事故になっていた可能性は高いと思う。
たかがブレーキ、されどブレーキ。技術の進歩のありがたみを、つくづく感じた週末でした。ちなみに、この三連休、慣れぬ雪のせいでの事故は、群馬県、栃木県、茨城県の三県で700件あまり。あやうく、この数字に加算されるところでしたね。