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ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

国税不服審判所 その三

2012-10-18 11:55:00 | 経済・金融・税制

前回に国税不服審判所において、納税者の主張が認められたケースは、概ね12%程度だと書いた。

この数字をみて、その低さに驚かれた方は少なくないと思うが、実はこれには訳がある。税金に関して高いと文句を言う人は少なくないが、実際に苦情を言ってくる人のうち、まともな苦情は半分に満たない。

税法を知らなくても、それは無理だよと呆れてしまう苦情がけっこう多い。また、一見まともな苦情であるのだが、税法というよりも憲法や民法など他の法律の縄張りに踏み込む苦情であるがゆえに税務署では受け付けられないものもある。

一例を挙げさせてもらうと、家族同様に暮らしている猫ちゃんの食事代を必要経費として認めろなんて、いくらなんでも無理だ。常識で分かりそうなものだが、猫ちゃんに対する愛情で脳みそが蕩けているのだろう。

また婚外子で認知されていない子を扶養家族に入れるのも、現行法では無理だ。これには民法の大幅改正が必要であり、税務署にそんな権限はない。私も国税局のコールセンターや、確定申告期の無料相談会で、この手の無理な苦情を受けることがあるので分かるが、本当にけっこう多い。

税務署に持ち込まれる苦情のうち、だいたい4割ちかくが、この手の初めから無理な内容なのだ。だから、それを国税不服審判所に申し立てても、却下せざる得ない。見方を変えると、不服申立のうちこの手の問題外のものを除いてみると、2割強の申立を審判所は納税者の主張を認めていることになる。

これでも低いと思われるかもしれないが、裁判所において納税者勝訴の割合が1割弱であることを思えば、けっこう納税者の主張が認められているのではないかと私は思うのです。

もっとも私は、わりと近年まで国税不服審判所なんて、税務署職員のミス救済所であり、ポスト不足に悩む幹部職員の待機場所じゃないかと邪推していたぐらいです。

しかし、時代は変わるのです。実は数年前から、この審判所に民間からの人材登用が認められて、今まで知られていなかった実情が分かってきました。

当たり前ですが、税務行政に関する不満受付場所でもあるので、税法の専門知識をもった税務職員が出向していることも多いのですが、専属の職員もおり、また裁判所や検察からの出向してきている職員もいます。

平成19年から税理士、公認会計士、弁護士などの民間からの専門職を、審判官として登用することで多様な立場、見解、意見を合わせて合議することで、審理の質を高める努力をしているのです。平成23年度においては、審判官の約半数がこのような外部登用者から構成されているほどです。

実際、私の所属する京橋支部の会員からも、国税不服審判所に出向して審判官を務めた先生もいました。この夏、毎年行われる研修会で、実際に審判官を務めた税理士の先生から、いろいろと内情を聞かせていただいたのですが、実に興味深い話が多かった。

納税者からの不服申立があると、専任の審判官が担当することになるが、実際の審理は複数の審判官による合議がある。審判官には法務省からの出向してきた検事や裁判所書記官、民間からは弁護士、公認会計士などが参画する。

もちろん国税局からの出向者もおり、それぞれが自らの経験と知識と立場から多様な意見を織り交ぜ、最終的には担当する審判所長の裁決により結論が出される。経験豊かな国税出身者からの税法面からの意見だけでなく、司法関係者から訴訟を前提にした意見などは大いに尊重されるという。

どうやら、私はかなり邪推しすぎていたようである。

おそらく、ほとんどの納税者はこの国税不服審判所の門を叩くことはないと思う。新聞TV等でマスコミから華々しく注目されることもない行政機関でもある。だが、民主主義国家の根幹を支える部門の一つであることは間違いない。

皆さんの頭の片隅に、こんな仕事をしている役所もあるのだと知っておいて頂けたら幸いです。

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