ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

信長のシェフ 原作・西村ミツル 作画・梶川卓郎

2014-08-11 16:37:00 | 

日本史に名を遺した人のなかでも、やはり織田信長は突出して魅力的だと思う。

実力がなければ生き残れない戦国時代の武将ではあるが、信長の存在は飛び抜けて異端だと感じることが多々ある。日本人らしくないというべきか、革新者でありすぎる。

もっとも当時の歴史を詳細にみていくと、信長がやったとされる革新的な政策には、その前例というか先駆的存在があり、信長はそれを取り上げ、より効率的に運用していたのが実態に近いと思っている。

一例を挙げれば、戦国時代の兵士は平時は農民で、戦の時だけ徴用されるパートタイム兵士であった。当然に農繁期には徴用できず、必然的に戦の時期は農閑期とならざるを得なかった。

しかし、信長は給金を支払って雇用した専業兵士を持っていた。ちなみにその給金は、楽市楽座で得られた貨幣をもって購っている。農民兵が常識であった時代にあって革新的なのは確かだが、信長はおそらく堺の警備を担った雇用された兵士などを参考にしていたと考えられる。

米の石高をもって経済力の指標としていた時代にあって、商業の価値を認め、そこから得られるお金で常備兵を備えた先駆者ではなかったが、信長はそれを大々的に行い、その経済力に裏付けされた軍事力で日本統一を目指した。

このように書くと、簡単なことに思えるが、実際にやってみれば様々な抵抗を受け、結果的に失敗した先駆者は数多いのは、今も昔も変わらない。信長が目立つのは、結果を残したからであり、極めて政策実行力の確かな政治家であるのは確かだ。

では、なぜに信長は成功したのか。いくら崇高な理想であろうと、既成の概念や常識の枠を飛び越えて実行するのは至難の業だ。それを可能にしたのは、信長自らがその理想の体現者であり、実践者であったからだ。

それだけではない。信長といえば極めて厳しい武将であり、信賞必罰は当然のこと。時には苛烈なまでに部下に当たることでも知られている。だが、厳しいだけでは、下はついてこない。

想像だが、信長は時折人の心に染み入るような優しさを持っていたのだと思う。日ごろ厳しい人が、時たま見せる優しさは、そのギャップゆえに人の心に深く染み入る。まったく魅力的な人物だと思う。

当時の武将の嗜みではあるが、信長は茶道や雅楽など芸術面にも通じていた。だとしたら、食事についても先駆者的な楽しみを見出す人物であった可能性は高いと予測できる。

実際、安土城で部下の武将たちに振る舞われたとされる食事の献立が一部残っているが、かなり贅を尽くしたものであった。これはNHKの番組であったが、解説していた料理学校の先生が、当時の最高技術を用いたものだろうと話していたほどだ。

だとしたら表題の漫画で描かれているように、現代からタイプスリップした料理人が、信長の御眼鏡に適う可能性は十分あるだろう。だからこそ、この漫画は面白く、ヒットした。

まだ連載が続いているので、いかなるエンディングをみせるか分からないが、読者としては十分期待できる。私はタイムスリップなど時間SFは、必然的に予定調和を目指さざるを得ないので、あまり好まない。でも、この漫画は美味しそうな献立と相まって、けっこう楽しんでいます。

コメント (13)
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