26年かけて完結である。
その歳月が作品をダメにしたと思ってしまった。かつて「銀河英雄伝説」通称銀英伝で一躍作家として売れっ子になった田中芳樹だが、手を広げ過ぎて、未完の作品が多過ぎる問題児であった。
でも忘れていたわけではなく、表題の作品も2年前に最終巻を刊行した。でも私はすぐには手を出さなかった。あまりにブランクが長すぎる。プロの作家として怠惰を許す気持ちになれなかった。
先日、古本屋で投げ売りしていたので、ようやく読んでやる気になった。ずいぶんと斜め上目線なのは認めるが、本音を言えばけっこう期待していたんだぞ。
だからこそ失望を禁じ得なかった。この顛末はあんまりだ。エンターテイメント小説として評価すれば、どうしても点数は低くならざるを得ない。最初の頃は、あれほど輝いていた作品だけに、失望は大きかった。
だが、冷静に考えてみると、この結果は現在の田中芳樹の現実への失望の反映だと理解できる。かつて銀英伝において、開明的で善政をひく独裁者と、腐敗した民主主義を対峙させつつ、最後は民主主義に希望を託すかのようなエンディングを描き出した。
しかし、あれから30年、田中芳樹は現実の政治に絶望を感じているのだろう。それは近年書かれた「創竜伝」や「薬師寺涼子シリーズ」などに反日、自虐的な傾向が見て取れることからも察せられる。
さすがに世襲制の独裁政治は否定するが、民主主義に基づく議会政治には絶望さえしているようだ。だからこそ、この作品の最後は、政治的な結論を放り出し、大空位時代に逃げたのだろう。
ヤンを超えるかもしれない逸材であったジェスランを逃げ出させ、成長の兆しを見せていたヒューリックを貶め、なによりアジュマーンを堕落させた。これは現実に希望を託せなくなった田中芳樹の心象の反映でしかない。
忘れちゃ困るが、これは娯楽小説である。放り出していた宿題を、投げ遣りにやっつけた。私には、そう感じざるを得なかったことが、大変残念でした。