わりと入院生活が長いせいか、いろいろな患者をみてきた。
さすがに今回、ある患者には驚かされた。一般病棟に移ってすぐ、やたらとナースコールが多いことに気が付いた。しかも、それはある一人の患者に集中しているようなのだ。
私の病室は、ナースステーションのすぐ傍なので、ナースコールの音がよく聞こえる。しかし、私が驚かされたのは、唸り声というか吠え声であった。
最初、なにかの動物の声かと思うほどに意味不明であった。ヤギに近いが、牛にも似ている。そして病棟全体に響くほどの大きな声なのだ。
安静度が緩和されて、車椅子ではなく自分の足でトイレまで行けるようになって、ようやく気が付いた。私がヤギの声かと思っていたのはどうも「お~~~I」といった呼び声らしい。
牛の唸り声かと思った「お~~~」とか「う~~~」は、「おい!」と呼んでいるらしいのだ。少し離れた個室の主がその発生原であった。とにかく我がままで、大部屋は他の人の迷惑なので個室に移された。
凄い病棟に来たもんだと呆れたが、一番大変なのは世話をする看護師さんたちだろう。まぁ彼女たちも馴れたもので、動物を躾けるが如き対応である。
しかし、この病棟に居るということは、心臓関係の病人だと思うが、よくもまあ、あれほどの大声を出せるものである。相当に体力を消費すると思われる。今の弱った私には無理だと、ある意味感心する。尊敬はしませんけどね。
事情はよく知りませんが、多分寝た切りの状態なのでしょう。だからかつては自分で出来たはずの身の回りの雑事が出来ない。だからナースコールで看護師さんを呼び、用事を頼む。
それは分かる。実際寝た切り状態での不自由さは、身体的というよりも精神的なストレスのほうが大きい。分かるけど、人にものを頼むにも常識ってものがあるだろうに思う。
ちなみにあれだけ大声で唸っておいて、いざ看護師が来ると大人しくなるらしい。でも、看護師さんたちの対応から予測するに、たいした用事ではないらしく、軽く扱われている。
もっとも彼女らも人の子、かなり鬱陶しがっていることは分かる。多分、この患者、家にいてもあんな感じなのだろうな。家族も大変だろう。
そう思ってはいるが、やはり私としてはかなりうざい。なので「吠えザル」と密かに呼んでいる。決して口には出しませんけどね。