私がプロレス最強論に興味を失くしたのは、十代後半の頃だ。
もういい加減、気が付いていた。プロレスの試合は観客あってのものであり、観客を沸かせることが出来るプロレスラーこそ真のプロだと。
プロレスは身体を鍛えぬいた強者たちの格闘演劇だ。肉体と肉体の激しいぶつかり合いの迫力は分かり易い。それは真剣勝負ではなく、真剣な演技である。
だからプロレスが格闘技最強だなんて思わなくなった。
だいたいプロレスは相手の技を受けることが重視される。本気の格闘技ならば、相手の攻撃を受けず、自分の攻撃を優先させる。だが、プロレスでそれをやったら、それはショッパイ試合だとされてしまう。
私もそう思う。ごくまれに、プロレスでも本気で相手を潰すような試合がされてしまうことがある。はっきり言いますが、格闘技の素人である観客からすれば、実にツマラナイ試合でした。
有名なので実例を挙げると、ジャイアント馬場がビル・ロビンソンを懲らしめた試合や、タイガーマスク(佐山)が口の軽いメキシコの仮面レスラーのウルトラマンを痛めつけた試合。どちらも見ましたが、面白くない試合でした。
逆に格闘技者としてみれば、あまり強くないだろうけどリック・フレアーやニック・ボックウィンクルの試合は楽しかった。観客を楽しませることを分かっているプロレスラーの試合は、金を払って観に行く価値があるのです。
それでもプロレス・ファンはプロレス最強論に恋い焦がれるのでしょうね。気持ちは分かる、よく分かるけれど、プロレスラーがプロレスラーである限り、本気の強さを競い合う格闘技は不利なのが現実。
実際、本気で総合格闘技の世界で勝とうとした桜庭は、勝つためのトレーニングに励み、当時世界を席巻したグレイシーに勝っています。でも、そのための体つきはプロレスラーとしては見映えの悪いものでした。無駄を省き、勝つための身体に絞った結果、相手の技をわざと受けるプロレスラーとしては、いささか貧弱に過ぎた。そのため、プロレスの名試合を作るのが難しくなってしまった。
正直、プロレスラーがプロレスラーである以上、勝敗を競い合う格闘技では不利なのが実態でしょう。そんななか、桜庭と並び格闘技の世界で実績を挙げたのが藤田和之でした。
正直、日本人離れした体躯の持ち主。なんというか、南太平洋のサモア系の体つきが凄い。アマレスの実績も凄いけど、この人が格闘技の世界で勝てたのは、打撃のセンスがあったからだと私は考えています。
単にレスリングの実績ならば先輩の永田裕司も決して劣りませんが、永田は当時経営的に苦しかった新日本のトップとして頑張らねばならず、そのせいで技を受けてしまうプロレスラーの癖が抜けきらなかった。
しかし藤田はその点、わりと自由だった。特にフック系の打撃はボクサー顔負けの威力。あたしゃ、この人の打撃を受けるのは真っ平だと断言できるほどの迫力があります。だからこそマーク・ケアーら総合の猛者にも勝てたのでしょう。
パンクラスの船木選手が日本人最強のプロレスラーとして藤田を挙げていますが、分からないでもないです。身長こそ182㎝ですが、体重120キロの分厚い体躯は迫力満点であり、打撃良し、投げ技、寝技、関節技と多彩な点も高評価できます。
ただ、プロレスラー藤田となると私の採点は辛い。強い、弱い以前に対戦相手との格闘演技が渋い。おそらく格闘技の経験者ならば、藤田が地味に見せる技の凄味が分るのでしょう。実際、玄人筋からの評価は高いのですから。
でも私のような格闘技素人には分からない。今もたまにリングに上がっていますが、どちらかといえば最近のほうが上手くプロレスをやっています。ただドラマを作るのは上手くないなァ。