南米のアマゾン川にはピラニアよりも恐ろしい魚がいる。
それがカンディルと云う魚だ。なにが浮「って、生物の体内に潜り込んで、内部から貪り喰う肉食魚だからだ。大型の魚の鰓から入り込み、徐々に浸食していく。背びれには逆棘があり、無理やり引き出そうとすると体内を引き裂くことになる。
この魚にはもう一つ、怖い話がある。それは人間の尿道や肛門といった穴から潜り込み、人間の内臓を食い荒らすというのだ。実際、ブラジルでは、現地の人たちが恐ろしげに話す。
「おらの従兄弟の奥さんの親戚の男の子が、カンディルに尿道から侵入されて都会の病院で手術をした」とか「隣村の親戚の親友が、川で放尿中に尿を遡ってカンディルに入り込まれて大騒ぎになったんだ」とか。
勘の良いかたなら気が付くと思うが、いずれも伝聞ばかりで、直接の体験話ではない。それを訝しんだジャーナリストが現地に飛んで、あれこれと探したが、新聞に報道された事件の該当者は、いずれも不明。いや、記事を書いた記者自体が、噂話をもとに書いていることが分かった。
カンディルが大型魚の体内から見つかるケースは実際にあるが、人間の体内、それも尿道や肛門から見つかったケースは、水死体以外ではないらしい。いわば都市伝説に近いものらしい。
まァよくある話なのだろう。実際に尿道の内部が傷つくのは、相当に痛い。本当に痛いんだ。
先月下旬に救急車で某大学病院に運ばれた際、私は緊急処置室で尿道内に導尿カテーテルを挿入された。少し嫌な予感はした。私は他の病院で、やはり同様の処置を受けたことがある。あまり気分のよいものではない。しかし、意識を失う可能性が高いので、やむを得ず納得している。
ただねぇ・・・大学病院って医師の学校なんですよね。
私はこの大学病院に二十代の頃、長期入院をしているので、いろいろと知っている。若い医師には下手くそがいることも知っている。もちろん全員ではなく、ごく一部だと思う。また医師に対する教育機関としての役割がある病院だけに、致し方ないとも思う。だからって、痛いものは痛い。
今回、処置してくれたのは、私の予想どうり若い医師であった。最初からけっこう痛かったが、鎮静剤で意識もうろうな状態なので我慢できた。しかし救急救命センター内のベッドに運ばれて数時間、痛みは我慢できなくなった。
マジな話、アマゾン川のカンディルが侵入したのかと思うほどに痛くなってきた。それを看護師に伝えると、「医師に相談しますね」と返答してきた。そしてその後、導尿カテーテルは抜かれた。ちなみに抜いてくれた医師は上手だった。
ただ、その後トイレに行く際、車椅子で運ばれるのだが、排尿時の痛みは飛びあがるほどであった。便器をみると、明らかに血が混じっていた。やはりあの若い医師、下手くそだったよ。
結局、この痛みと血尿は三日ほど続いた。それより不気味だったのは、医師も看護師もこのことに触れないことだった。その癖、私の排尿時にはチェックしていたから、しっかりと情報は伝わっていたはずだ。
その後、一般病棟に移ってからも、さりげなくチェックが続いたところをみると、私の知らぬところで何やら話し合いがあったらしい。それが影響したのかどうかは知らないが、一般病棟では、私に看護学校の生徒が補助に付けられて、身の回りの世話を焼いてくれた。
別に私は医療過誤だと騒ぐつもりはないけど、あんまり内々に処理されるのは、いささか気持ち悪い。まあ、丁重に扱われたので、それはそれで良しなんですけどね。