ここ数年、私を悩ませているのが大化の改新、現在では乙巳の変と呼ばれている政変である。
当初、私は有力な豪族の連合政権であった大和王朝をシナに倣っての中央集権国家へのターニングポイントだと認識していた。
ところが近年、私なりに日本史の勉強をやってみると、どうも違和感を禁じ得ない。特に私を悩ませたのが天智天皇と天武天皇である。この二人、兄弟とのことだが、どうにも信用できない。
その違和感の原因は日本書記である。天武が命じて作成されたのだが、執筆者の一人に藤原不比等がいることが事をややこしくさせている。大化の改新の功労者である中臣鎌足の子(天智の子説が有力)である不比等は、500年にも及ぼうとする藤原家の覇権を基礎を作った人物である。
その不比等が編纂に関わっている以上、日本書記が単なる記録であるはずがない。そもそもその作成を命じた天武は何の目的で書かせたのかも明確ではない。調べれば調べるほど謎が増えていくのは、ほとほと閉口した。
そこで前後の歴史も勘案して調べるうちに、藤原家と聖徳太子との謎の関係にまで謎が拡がってしまった。藤原家がなぜに聖徳太子を怨霊として怖れる必要があるのかが分からない。時代が違うし、中臣家とも関連が見いだせない。でも、明らかに藤原家は聖徳太子を恐れている。
そうなると、中大兄(天智)と鎌足による蘇我家殲滅を狙った乙巳の変までも、異なる面から再考する必要がある。もちろん蘇我氏と厩戸皇子との関係も含めての再考となる。そもそも聖徳太子の存在意義まで疑わしくなってきた。
私の乏しい知能のキャパシティを超えてしまったので、ここ最近は少し冷却期間を置いている。攻め方を変えて、当時の日本を取り巻く世界情勢のほうから勉強し直している。
そして告白させて頂くと、私が「もう、分からん~!」と匙を投げたくなった一因が表題の作品である。実はこの作品を初めて読んだのは、心筋梗塞で入院していた時である。カンファレンス・ルームに置かれてあった漫画雑誌に連載されていたのだ。たしか連載開始後2週目だったと思う。
掲載誌はビックコミックである。日ごろ、私が滅多に読まない雑誌であったため、このような作品が連載していたこと自体驚きであったが、それ以上に内容が凄かった。
青年誌というよりも成人男性読者が中心の漫画雑誌であるためか、山岸凉子の「日出処の天子」よりも更に生々しかった。私が十代の頃ならば、男性読者が引いてしまうような描写が平然と描かれていることに衝撃を受けた。
ただし、その内容は副題にある「新説・日本書記」に相応しいものです。全11巻ですが、是非とも堪能して欲しい一作。最後は・・・うん、相応に美しいと思いましたよ。