ヌマンタの書斎

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はずれ馬券の経費性

2022-07-05 12:52:51 | 経済・金融・税制
お笑い芸人の方が、5年遡って競馬の馬券収入の修正申告を求められたそうである。

本人は憤懣やるかたなく、国民的議論の上で、税制を変えることまで視野に入れての抗議と国民の議論の必要性を訴えている。訴訟まで視野に入れ、最高裁まで争うと鼻息荒い。

税政を議論すること自体は喜ばしいことである。源泉徴収と年末調整のせいで、日本の有権者は税制に無関心に過ぎる。納税に苦心する企業の声を受けて経団連などが国会に働きかけるくらいで、一般国民が税制について真剣に考える機会は少ないのが実情だ。

だからお笑い芸人といえども、正々堂々税制に異を唱えることを無価値だとは思わない。

思わないけれど、税務の現場に30年以上関わってきた者として、この抗議と訴訟は納税者側が負けると考えている。

理由は簡単で、競馬は遊戯であり、その馬券収入は余禄のようなものだからだ。要するに国家としては、遊びで稼いだお金を優遇する気はないってことだ。

より正確には、年間50万円程度の儲けならば非課税で良く、それを超えても課税されるのは、その半分である。つまり馬券の稼ぎは長年にわたり一時所得として優遇している。

お笑い芸人の方が主張するように、外れ馬券の必要経費算入まで認める気はない。何故なら生活に不要な遊戯からの所得だからだ。

これには過去、類似の判例がある。有名なのは先物取引訴訟であろう。これは先物取引で発生した膨大な赤字を、他の所得と相殺することを求めたものだ。最高裁まで争っているが、いずれも敗訴に終わっている。

その基本にある思想は、生活に不要不急な取引で生じた損失は認めないといった、勤勉を是とする国家の考えにある。

ちなみに外れ馬券の必要経費算入を認めた事例が数件あるが、あれは規模が違う。延べにすると数十億に達する巨額な馬券収入であるからこそ、生活に資する主たる所得だと認められた稀有な事例である。ただし、損失の他の所得との通算は認めていない。これは従来の先物取引と同様な扱いだ。

外れ馬券などの必要経費性を議論するのは良い。でも、国家として遊戯あるいは投機を優遇するかのような施策は取りづらいと思うし、それが倫理的にも正しいと私は考えています。
コメント
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