ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

家庭の躾

2022-11-10 11:49:44 | 社会・政治・一般
その訃報を耳にした時、どうしようもない無力感に襲われた。

小学校の時のクラスメイトであり、遊び友達でもあったAの訃報である。還暦を迎えた同年代の旧友なのだから、いささか早過ぎる気もするがさほど不自然ではない。ただ死因が納得いかない。伝聞なので不確かだから家族絡みとだけ書いておく。

私はAの奴ほど万引きの巧い奴を知らない。よく遊んだ仲だが、Aが財布を開いて買い物をしている場面をみたことがない。Aは買いたいものを全て万引きで調達する。その現場をみたことがあるが、実に自然に、さりげなく、こともなげに商品を盗んでしまう。

それでいてAはそのことを自慢することはない。当然のことをしていると云わんばかりの態度であった。彼は必要なもの以外を盗んだことはないらしい。それどころか、普段のAは物を大事にし、無駄を嫌う模範的な子供であった。

ついでに言えば、Aは温和で優しく暴力沙汰には無縁であった。とても真面目な奴だったが、なぜだか万引きという窃盗行為だけは止めなかった。いや、止める、止めない以前に、それを悪い事だと認識しなかった。

異なる中学に進学したので、以降は疎遠となったが、都内屈指の不良中学と呼ばれたS中に進学した私を真剣に心配していた。「ヌマンタ、お前喧嘩は弱いのだから、こっちのK中に来い」と熱心に誘われたことは良く覚えている。

お互い別々の中学に進み、離れてから初めて知った。Aのおかしな万引きに対する考えは、両親のせいだと。Aの両親とは幾度か会ったことがあるが、一見すると普通の大人であった。そう私は思っていた。

しかし実態は窃盗などの犯罪常習者であったらしい。Aに万引きを教え込んだのは他ならぬ両親であり、親の命令で窃盗の手伝いをしていたらしい。私が知らなかったのだがA家族は、基本地元では窃盗などを控えていたらしい。

週末になると神奈川や埼玉に出かけて、必要なものを盗んでいたらしい。そういえば土日にAと遊んだことはない。親の窃盗を手伝っていたようなのだ。ただAが成人になる頃に、一家まとめて逮捕され新聞にも載ったらしく、それで悪事が一気に知れ渡った。

私が聞いたところだと、Aは大人になっても窃盗癖が直らず、むしろ名人芸といわれるほど腕を磨いていたらしい。おかしなことにAの両親も、そしてA自身も一応堅気の商売をしており、見た目には普通の家族にしかみえなかったらしい。

Aの幼馴染たちは随分と心配して、Aに窃盗を止めろと説得していたらしい。だが結局Aは止めないどころか、最後まで自分が悪い事をしているとは認めなかった。もっといえば、Aの両親も幾度も刑務所に入りながらも、決して窃盗を止めることはなかった。

仲の良い家族であったと記憶しているが、最後までA家族はまとまって暮らしていたそうだ。ただ盗んではいけない相手から盗んでしまい、そのことでA一家は関西方面に逃げたそうだ。Aの父親がそちらの出身であったからだそうだが、後で聞いた噂ではその地元に居られなくなったから上京したはずなので、戻っても楽には暮らせなかったと思う。

多分、ここまで読んだ方には、もしかしたらA一家はあの方面の出身ではないかと憶測できてしまうかもしれない。私はその方面に疎いので、これ以上詳細には書けないが、おそらくそうだろうと思っている。

私の記憶にあるAは、真面目で誠実で優しい奴だった。ただ万引きという窃盗に対する考えがおかしかった。それは育った環境(家庭)によるものだと断定して、ほぼ間違いないと思う。

なんとかならなかったのかと思うが、窃盗以外ではまともな親から厳しく優しく育てられたAを救い出す方法が私には思い浮かばない。世の中は不条理だと思う。非難することは容易いけど、解決策を呈示して実現することは難しい。

わかっちゃいるけど、この無力感、如何ともし難いのが辛いです。
コメント
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