以前から不満に思っていた。
私の事務所は、社会保険に加入している。スタッフの福利厚生の一環として、良い人材を確保する上で必要だと考えていたからだ。ご存じの方も多いと思うが、厚生年金に事業者が加入した場合、その給与支払額に応じて標準報酬が算出され、約半分を給与から天引きする。
そして残り半分は事業者負担とされ、合算して納めることになる。ところでこの厚生年金は国民年金を一階部分とすると、二階部分として支給時期になると、公的年金として二か月に一回、支給される。
ところがこの支給はあくまで給与から天引きされた部分だけだ。ほぼ同額を事業者が負担しているが、これは各人の厚生年金支給額には反映されない。
ちなみに厚生労働省にいわせると、この事業者負担部分は一階部分に相当する国民年金に補充されるので、おかしくはないとの説明である。これってひどくないか?
私に言わせれば、この事業者負担部分は社会保険税ともいうべきで、間違っても年金保険ではない。それを承知しているのか、税務上は全額損金に落ちるが、それは当然のことで、そもそも年金保険を名乗るのはおこがましい。
要は赤字になっている国民年金を補てんしているだけだ。しかも厭らしいことに、この厚生年金制度への加入者を増やそうと躍起になっている。おかげで法人形態をとる会社はすべて強制加入である。
私のような個人事務所は5人以上は強制である。正直、任意加入している私は、その支払いにけっこう苦労する。法人でも支払に苦労している会社は少なくないのが実情だ。
なぜなら日本の社会構造は、下請けや零細企業に負担を強いるようになっているため、どうしたって中小、零細は資金面で苦労する。実際、コロナ禍で閉店や休業に追い込まれた零細事業者を尻目に、大企業は史上空前の利益を上げている。
もちろん大企業だって苦しいところはある。しかし、下請けに無理な値下げを強要できる大企業は、不況などお構いなしに儲けているのが実情だ。大企業有利は、別に日本だけの特徴ではないが、だからといって現状の社会保険制度が適正だとは思えない。
どう考えても、大企業と中小、零細企業ではその負担率に差を設けるべきだと思うが、平等性とか公正さを前面に出して拒否している。大企業と中小企業に優劣関係はないと思い込んで、現実から目を逸らしている。
中小企業向けに作られた厚生年金基金が既に危機的な状況にあり、いくつも解散している現実をどう考えているのか。はっきり言うが、解散の原因は単に中小企業が社会の変化に対応できず、縮小しているからだけではない。事業者負担が重過ぎるが故に自主的に解散している。
私は税理士業界用の健康保険組合に加入しているが、ここも決して万全ではない。平均年齢が70歳ちかい税理士業界だが、若手の税理士が多く務めている大手の会計法人が複数同時に脱退して、独自の健康保険組合を設立している。
なぜかというと、高齢者が多い税理士中心の組合では、どうしても医療費の負担が大きい。医療費が少ない若手中心の会計法人にとっては、むしろ負担が大きく、なれば独自の健康保険組合を設立したほうが財政的に安定するからだ。
若者の負担する社会保険が、高齢者社会を支える構造を無理に押し付けると、いずれはこのように若手は逃げていく。まァこのあたり、専門家ならではの遣り口ではあるが、いずれ一般化するとも予測している。
そうなると大企業といえども安穏とはしていられなくなる。既に社会保険の事業者負担を免れる悪知恵が議論されていると聞いている。そうなると、社会保険制度は大きく揺らぐ。
嫌な予測だが、国民健康保険などに一本化され、窓口負担が現行の3割から更に上がると思う。最悪、窓口で5割負担となる可能性もある。世界に冠たる日本の社会保険制度ではあるが、現状のままだと制度が維持できなくなる可能性は高い。
既に幾人もの識者に指摘されていることだが、霞が関の動きは鈍いというか、見当はずれの愚策ばかり。社会保険を管轄する厚生労働省にとっては大事な独自予算であるため、制度の維持しか頭にない。
若い労働者が減り、高齢者が増える一方だと、この社会保険制度は必ず破綻する。もう既にその兆候が見られている以上、その対策は早急に取り掛かるべき課題です。
はっきり断言しますけど、厚生労働省だけでは絶対に無理です。消費税増税などで政府の収入を増やすだけでも厳しい。社会構造の変化を織り込んだ抜本的な対策が必要でしょうね。
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