カッポン、カッポンと音が聞こえる。
怪力レスラーとして知られていた豊登がリング上で行うパフォーマンスである。両腕を胸の前で交差させるだけなのだが、異様に太い腕と、分厚い胸板が生じさせる常人では真似できぬパフォーマンスであった。
角界出身で、プロレス入りしてからは力道山のタッグパートナーとして名高かったのが豊登であった。温厚な性格で後輩虐めなどとも無縁で、多くのレスラーから慕われた。ただしどうしようもない悪癖があった。ほぼ不治の病といって良いほどのギャンブル狂いであった。
とにかく手に届くところに金があればひっつかんで賭場、競馬場、競輪場、パチンコ屋などに通った。どうも角界に居た頃からのギャンブル狂いであり、プロレス入りしてからは、更に狂人といって良いほどにギャンブル狂いが加速した。
ギャンブル以外では、むしろ温厚な善人であっただけに周囲から散々ギャンブルを止めるように言われていたが、結局止められなかった。このギャンブル狂いの度合いがあまりに酷かったが故に、いくつものプロレス団体を追放されている。
放浪癖があり、失踪は日常茶飯事であるためまともな家庭をもつこともなく、ヤクザの親分の用心棒などもしていたとの噂もある。お寺の一角に住まい、庭掃除などをしていたとの噂もあった。
私は彼が国際プロレスのリングに上がっていた頃、一回だけ試合を生で見たことがある。中盤の試合であったが、試合が荒れそうになるとリングに出てきて場をまとめるような試合ぶりが印象に残っている。もうベテランといって良い年齢であったが、技が切れるでもなく、またかつての怪腕ぶりも鳴りを潜めてしまったが、彼が登場すると若手の選手たちがお行儀よくなる雰囲気があった。
ギャンブル狂いを別とすれば、威張り散らすこともない温和な先輩レスラーとして敬意を払われていた印象がある。実際、リング上でも通路でも穏やかな笑顔が記憶に残る不思議な人だったと思います。怖さは感じなかったが、他人から敬意を払われる珍しいプロレスラーでした。
21世紀になる少し前に亡くなったそうですが、ギャンブルのために借金しまくり、返せなかったダメ人間であるにも関わらず、あまり悪口を聞いたことがない稀有な人でした。ギャンブルさえなければ、もっと成功していたでしょうね。まぁ豊登本人は「そりゃ無理だよう」と苦笑していたと思いますがね。
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