ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

地を這う虫 高村薫

2015-08-24 11:58:00 | 

人は自由に生きられる、どんな生き方だって出来る。

そう云われることが多いが、それほど自由ではないと思う。不況によるリストラや、震災等の災害により生き方を制限されることは珍しくない。自分の思う通りに生きられることなんて、むしろ稀ではないかと思う。

またその生き方は、その育った生い立ちや、最初の職場での環境に大きく左右される。いや、縛られると評した方が現実に近いと思う。特に社風が確立(停滞とも云うが)した大企業や、定型的な職場姿勢が求められる官公庁を最初の職場に選ぶと、必然的にそれに染まる。

表題の作品は短編集なのだが、主人公は警察の出身者ばかりだ。途中で辞めた者、今まさに辞めようとしている者、それぞれ警察から離れても、警察という組織の鋳型にはまった人生を引きずる。引きずらざるを得ないのが、警察という組織に染まった者の宿命であるかのように。

その生き方は不器用であり、いささか滑稽でさえある。正義と、その反対のものとの狭間に身を潜めながら、正義の矛盾を感じつつも、不正に加担することは拒否する。

自由な選択肢があっても、敢えて地味で不器用な道を選ぶのが警察なのか。その生き方は地を這う虫のようにちっぽけではあるが、確実に目的に向かって進んでいく。迷いはあれど、妨害があろうと、真っ直ぐ目的に向かっていく。

それが、警察という組織に身を置き、その中で生きてきた男たちの生き様なのだと、表題の書は教えてくれる。

入院中に院内図書室から借りた本ですが、一晩で読みきれる快作でした。機会がありましたら、是非どうぞ。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ヌマンタ)
2015-09-04 12:05:39
タクさん、こんにちは。警察のような行政組織は、人を型にはめるような傾向があります。私はそれに反発することが分かっていたので、決して公務員になろうとは思いませんでした。
でも、十代の頃に知らず知らずに狽チた人としての型枠には、見事にはまっていると思います。
型にはまった人生だからこそ、見えてくる景色があるのだと、この本は教えてくれました。
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Unknown (タク)
2015-09-04 06:55:22
ヌマンタさん、こんにちは。先日ふと中年のおまわりさんを見かけた時、この人に日常は、一人ふらふら生きてる自分には想像の範疇越えてるんだろうな、、、と、思いました。
読んでみよう。
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Unknown (ヌマンタ)
2015-08-28 12:01:49
ごみつさん、こんにちは。退職した警察官を取り上げたところがミソですね。私は自分が役所には向かない人間だと自覚しているので、警察に限らず役所で働こうとは考えもしませんでした。組織の枠にはめ込まれるのが嫌なんです。でも、この枠が人の鋳型となり、さまざまなドラマが生まれるのだと納得の作品でした。
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Unknown (ごみつ@携帯)
2015-08-27 14:33:00
こんにちは。

これ人間ドラマが深くて秀作ですよね~。
こういう警察小説がもっと読みたいです。(*´∇`*)
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