彼岸花星雲(NGC6357)と出目金星雲(NGC6334) Photo by かんと氏
かんと氏の天体写真を見ていたら、若かったころ、北米大陸を一人旅していたときの記憶が甦ってきた。アンカレジだったかフェア―バンクスだったか思い出せないが、たまたま立ち寄った空港内の書店で、天文に関する本が目に留まった。パラパラと頁をめくっていたら、天体観測には双眼鏡が便利で有効だということが書いてあった。それなりに納得させられた、と思う。
この仕事を始めるにあたり、その双眼鏡を買った。一番の目的は、牛の耳に付いている個体識別用の番号を読むためだったが、もう一つは、遠い昔に異国で立ち読みした本の記憶に押されて、星を眺めるためにも使いたいと思ったのだ。高い買い物だったが、そのことを悔いたことはない。今ではそれらの目的に加えて、野鳥観察にも大いに役立ってくれている。
昨年には、かんとさんに骨折ってもらい、やっと天体望遠鏡も購入できた。長年の夢だったと言ってもいい。小学生のころ、理科室にあった望遠鏡を使って、どれほど月や星を眺めてみたかったことか、いまだに忘れられないくらいだ。
牧場で働くようになって、これだけの美しい夜空に天体望遠鏡がないということは、小学校の理科室の望遠鏡を覗かせてもらえなかったこと以上に、理不尽なことだと考えるようになった。子供のころに望遠鏡に対して抱いていたような過大な夢や期待は、実際には無理だということは分かってきたが、それでも、ここに1台はどうしても必要だという考えは揺るがなかった。人には「運命だ」と言った。現在、友人の厚意で寄贈してもらった少し古い1台を含め、2台常設している。
北米の旅は、最後に五大湖のひとつスペリオル湖の湖畔で野営して終わった。その時、ザックの中に入ったままずっと使う機会のなかったテントが、ようやく役に立ってくれた。広大な湖に突き刺さるようなオリオンを目にしながら、あの時味わった孤独感と、茫々とした不安の記憶が、今も消えずに残っている。
双眼鏡:カールツアイス社製、ビクトリー10X42。 望遠鏡:高橋製作所製、タカハシFC・100D、及びもう1台はアストロ光学工業社製、詳細不明。
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