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伊那側から来て、牧場内にある入笠山登山口と長谷方面に行く分かれ道の三叉路辺りからでも、稀にだが、第1牧区にいる牛の姿を目にすることがある。今朝もそうで、三角点のある丘の東側になるが、移動中の何頭かの牛が見えた。そのまま来て、小屋の方に曲がろうとしたら、今度は追い上げ坂の上に1頭のホルスが目に入った。咄嗟に、「脱柵だ」と思った。牛は草が容易に得られなくなると、脱柵する。また、牛にそのつもりがなくても、有刺鉄線の上下が広すぎたり、たわんでいたりすると、牛にしたら「あれ、出ちゃったよ」というようなことが、時にはある。
塩と配合飼料を用意して、第1牧区へ急いだ。脱柵した牛を牧区内に戻すには神経を使う、まして雨の中。今回は、背後から追い戻す荒っぽいやり方でなく、塩と飼料を使って誘導する穏やかな方法を選ぶことにした。
牛たちは車の音で分かったのだろう、ゲートを開けようとしたら一斉にこっちを、あの牛独特の「悪しきをひそめ」た目つきで凝視してきた。そして速足に近付いてきた。まるで、犬と変わらない。今年の牛たちは塩場に行かず、車に寄って来る。そういうふうに、調教したのだが、その間に頭数を数えたら、やはり1頭が足りない。
車の前後を牛の群れに囲まれながら塩場に向かいかけて、ふと左の目の端に小さい白い物が見えた。遠かったが、紛れもなく1頭の牛だった。脱柵したと思ったがそうではなかった。人間もそうだが、どうもこういうように時々、団体行動をしていても置いてきぼりを食ったのか、気が付かなかったのか、鈍いのがいる。
そのころになって雨は本降りになったが、念のため牧柵の点検をして、脱柵してなかったことを確認した。
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色付きかけた木々の葉は、まだ黄色が大勢だが、それでもツタウルシや山桜には次第に赤い色も目に付くようになった。この鬱陶しい秋の長雨も、季節の絢爛たる演出に一役買っているのだと思いながら、我慢している。
秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
「同(2)」をご覧ください。