入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「春」 (61)

2020年05月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 寒い、曇天。朝ここへ来た時の気温は10度しかなかった。そのせいか、昨日はウグイスと郭公が交互に鳴いていたのに、きょうはその声もしないし、いつもいる場所に鹿の姿が見えない。


Photo by Ume氏

 静かな山の午後だ。昼を過ぎても気温は上がらず、昨日は通行止めになっている小黒川林道を2台の車が下っていくのを見掛けたが、きょうはまだ1台の車も通らない。家で自作してきた弁当をここで黙って食べ、また作業に戻る。

 今は牧柵の補修をしている。こういう作業は、登攀ではなく、単独で山を歩いている時の気分とよく似ている。急ぐ必要もないし、誰かから急かされるわけでもない。作業の速さは自分次第で、ただ歩き続けて距離を稼ぐように、少しづつ仕事を進めていく。
 無心でも、没頭というわけでもないから、あれこれと考える。きょうは、昨日N氏から聞いた話を思い返していた。第1堰堤のあの枝垂れ桜の植わっている場所は昔は「オイデラ」と呼ばれ、外部から集落へ不審な者が来た際にはみんなで自警し、追い返した場所だと話してくれた。あんな山の中では、そういうことがあったかもしれない。
 また、その場所は山室川に流れ込む座頭沢と八ッ株沢の出会いでもあり、炭焼きを重要な生業とした集落の人々はまずそのオイデラに集まってから、二つの沢や、その支流の先に設けためいめいの炭焼き場へと向かったのだそうだ。
 その話を思い出しながら、もしかしたら「オイデラ」というのは「会う平」が訛って「オイデエラ」もしくは「オイデラ」になったのではないのだろうか、などと勝手な空想をしてみたりした。自警団が集合する機会よりかも、あの場所で作業の打ち合わせなどをする方が余程多かっただろうから、と考えたのだが。
 
 とにかく、牧場は今が一番清しくてきれいだ。放牧地に生えだした新鮮な緑の牧草が、枯草を押しやるようにして美しい縞模様を作り始めた。落葉松の葉はまだ淡く、樹幹から左右に伸びる黒い枝がその靄のような緑に透けて見えて、今の間だけはこの愛想のない人口林にも好感が湧く。白樺の幹と生え出した若葉が、揃って相性の良いところを見せれば、山桜の清楚な花がそろそろ舞台での短い出演を終えようとしているようで、惜しまれる。
 こんな春の静かな牧場は14年間で初めてのことだ。悪くない。
 
 本日はこの辺で。



 
コメント
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