入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「春」 (62)

2020年05月22日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 好天、今朝9時の気温15度。鳥の声がよく聞こえてくる。山桜の中には、葉の色がこの時季と秋の紅葉期に似たような渋い朱の色を見せる。その色が、他の様々な新緑の中で隠し味のような効果を出し、森をより味わい深く飾る。天然の画家の技量に疑いはない。
 今、ここから見えている最も新緑らしい鮮やかな緑は白樺で、落葉松の葉の緑はまだくすんでいる。この色の対比もまた悪くない。



 きょうも予定通り、第1牧区の牧柵補修をしていたら、それほど遠くない下の方で 動物のもがくような音がした。鹿だった。右の後ろ足 を電牧のリボンワイヤーに絡ませてしまい、逃げようとしても思うように動くことができずにいた。
 鹿の1頭や2頭 を捕獲してみても、大勢にどれほどの影響があるわけではない。それに、止め射しをするにはナイフが要るが、そんなものを常時腰にしているわけではない。面倒が増えるだけだと思ったら、仏心が湧いてきた。それにしても、当然感電しているはずなのにそんなふうにも見えない。不審に思いながら近付いたら、リボンワイヤーが有刺鉄線に接触していて、その状態では電流は地中に流れてしまって用をなしていないことが分かった。
 鹿にしてみたら、一度は数千ボルトの電流に感電したのだろうが、暴れているうちにうちに運よくその災難だけは免れることができたのだろうか。そして途方に暮れながら、一夜をそこでじっと耐えて過ごしたのだろうと想像が付く。枯葉を褥にした跡が残っていた。1匹の動物としては、できる限りのことをしたはずだ。
 ところが人間は、そういう鹿の生きようとする努力を認めかけて、ズタズタボロボロにされた電気柵を見て、気が変わった。しがない牧場管理人の立場に戻ることにしたのだ、やはり始末すべきだと。
 止め射し用のナイフを小屋へ取りに戻り、再び現場へ帰ってきた。鹿は改めて殺気を察知したのか、逃げようとして前よりも激しく暴れた。電牧ばかりか、通常の柵にもその被害が及びかけた刹那、激しく動く相手の頭に一撃を加え、昏倒させた。そしてすかさず胸部2か所を刺した。

 牧場に、また静かな夕暮れが近付いてきた。一日が終わる。明日は入笠の開山祭が予定されていたが、山の無事を祈るお祓いだけするそうだ。
 本日はこの辺で。

 

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