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穏やかな晩秋の趣を感じている。きょうはもう土曜日、今年の残された月日を意識してか、日の過ぎていく早さをより感じるようになってきた。
4日前の雨で白樺やダケカンバは一挙に落葉し、遠くの山はそれが根雪になったのだろう白い衣を纏うようになった。落葉松の葉の金色は一段と鮮やかさを増し、落葉したコナシの樹々は熟成した葡萄酒さながら、渋い赤色に変わりつつある。
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牧場内を流れる初の沢の源頭、大曲の傍に、豆粒大の赤い実を付けるマユミの木があり、いまごろになるとよく目立つ。葉が散ってしまっても、ここに初雪が降る11月の半ばごろまでは淡紅色と言うらしいが、健気にも実は残るだろう。
その実を写真に撮ろうとして、よく見れば外皮(仮種皮)があって、それが裂けた隙間から赤い種子が見えているということに、最近になって気付いた。この大曲を飾る1本の木の名前を誰から教えて貰ったかはもう忘れたが、以来牧場のあちらこちらでも目にするようになり、どうやら思っていたほど珍しい木ではないと知った。
まだ知らないことがあった。名前の由来である。マユミという名前は、いかにもこの赤い実に相応しく、単純に女性の名前だろうと決めていた。そしたら、なんと弓の材料に使われるということを、この木についてもう少し知ろうと図鑑を見ていたら分かり、勝手に持っていたこの木の心象とあまりにも違い、少し落胆した。
マユミの木の背景になるダケカンバの木は芽吹くのは遅いくせに、葉が散るのは早くて、すでに白い樹幹と鋭い枝を澄み切った冬天に晒している。幾年か前の今ごろ、この林の中に埋設されていた水道管を付け替えるため、一人で大分苦労したことを思い出す。不凍深度を意識しながら溝を掘り、木の根を切り取り管を埋める。それだけでも大変な労力だが、その上にまた土を盛ろうとすると斜面では土が崩れてしまい、幾度も投げ出しそうになった。
16年という月日はあっという間に過ぎてしまっても、そんな記憶を幾つか重ねてみれば、過ぎてしまった時間の速さを少しは遅らせ、取り戻せたような気分になる。
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本日はこの辺で。明日は沈黙します。