■大同特殊鋼渋川工場から排出された有毒スラグが、あろうことか農業地帯の農道に不法投棄されたにもかかわらず、原因者に撤去を命じるどころか、血税を使って舗装でその上に蓋をするという暴挙を犯した群馬県行政ですが、反省の気持ちは微塵もないことが分かりました。オンブズマンの調査嘱託申立に対して、ことごとくイチャモンをつけて来たからです。このような群馬県の農業行政に未来はあるのでしょうか。さっそく、イチャモンの内容を見てみましょう。
↑被告群馬県の訴訟代理人の弁護士事務所から送り付けて来た、原告からの調査嘱託の申立てに対する被告の意見書が同封された封筒。↑
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平成27年(行ウ)第7号 住民訴訟事件
原 告 小川賢,外1名
被 告 群馬県知事 大澤正明
調査嘱託の申立に対する意見書
平成28年8月2日
前橋地方裁判所民事第2部合議係 御中
被告訴訟代理人弁護士 関 夕 三 郎
同 弁護上 笠 本 秀 一
同 指定代理人 福 島 計 之
同 指定代理人 松 井 秀 夫
同 指定代理人 阿 野 光 志
同 指定代理人 篠 原 孝 幸
同 指定代理人 油 井 祐 紀
同 指定代理人 安 藤 敏
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原告らの平成28年7月19日付けの2件の調査嘱託の申立てに対する被告の意見は,以下のとおりである。
第1 群馬県環境森林部廃棄物・リサイクル課に対する調査嘱託について
1 嘱託事項の整理
意見を述べる便宜上,嘱託事項を以下のとおり整理する。
(1)嘱託事項1-1
本件農道整備工事に使用された鉄鋼スラグは廃棄物に当たるかを明らかにされたい。
(2)嘱託事項1一2
土壌に直接敷設された鉄鋼スラグが混同されたブレンド骨材が本件農道の直下の土壌を汚染させる可能性があるか明らかにされたい。
③ 嘱託事項1-3
土壌汚染の可能性については,個別に農道を分析調査しなければ決められ
ないのか,明らかにされたい。
(4)嘱託事項1-4
平成25年3月ないし同年7月に大同特殊鋼渋川工場内で実施された月別製造ロット別フッ素分析調査表を提供されたい。
⑤ 嘱託事項1-5
平成25年3月ないし同年7月に佐藤建設工業を介して工事現場に搬入された鉄鋼スラグの量と搬入場所を明らかにした資料を大同特殊鋼等から人手している場合,それらを提供されたい。
2 被告の意見
(1)嘱託事項1-1について
意見を求めるものであり,調査嘱託の範囲を超えているので,調査嘱託は認められない。
なお,原告らは,本件農道の下層路盤工に用いられたブレンド骨材,あるいは,そこに混ざっている鉄鋼スラグが「廃棄物」(廃棄物処理法2条1項)に
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該当するか否かに拘るが,撤去の要否は環境負荷の程度によって判断されるものであり,本件では,それを離れて廃棄物認定を論ずる実益は全くない。
(2)嘱託事項1-2について
嘱託事項1-1と同様,意見を求めるものであり,調査嘱託の範囲を超えているので,調査嘱託は認められない。
(3)嘱託事項1-3について
土壌汚染に係る試験方法の妥当性を照会する趣旨と思われるが,環境森林部廃棄物・リサイクル課は,かかる事務を分掌していない。したがって,調査嘱託は相当でない。
なお,被告がプロファ設計株式会社(以下,「プロファ設計」という。)に発注した試験方法が適切なものであることは,追って主張する。
(4)嘱託事項1-4について
原告らは,「スラグ F含有量分析 管理表」の平成25年6月分ないし8月分(甲26)を独自に入手した上で,これの平成25年3月分ないし5月分の提出を求めるものと解される。
しかるに,原告らは,この甲26に基づいて,大同特殊鋼が生産ロット毎にフッ素の成分検査を実施していたことを主張するのみで(原告らの平成27年12月25日付け原告準備書面(3)6頁3行目ないし5行目,7頁下から6行目ないし7行目),これが原告らの本件請求とどのように関連するのか明らかでない。
したがって,当該資料の提出を求める必要性は認められず,調査嘱託の必要性はない。
⑤ 嘱託事項T-5について
本件農道整備工事に用いられたブレンド骨材に混ざっている鉄鋼スラグに関する資料であれば格別,それ以外の用途に用いられた鉄鋼スラグに関する資料は,本件訴訟と関連性がない。原告らの申立ての趣旨は。本件農道整備工事以外の工事に用いられた鉄鋼スラグに関する資料に係るものと解されるので,調査嘱託は認められるべきでない。
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第2 プロフア設計株式会社に対する調査嘱託について
T 嘱託事項の整理
意見を述べる便宜上,嘱託事項を以下のとおり整理する。
(1)嘱託事項2-1
プロファ設計作成に係る環境調査業務報告書(乙14)の調査(以下,「本件調査」という。)で用いられた試料の採取者,採取場所,採取条件,採取時間(註:採取時刻の趣旨と思われる。)を明らかにされたい。
採取場所については,地番等まで特定し,特定に資する図面や写真等がある場合はそれらを提供されたい。
(2)嘱託事項2-2
本件調査において,ボーリングマシンで採取したコア試料の直径及び長さを明らかにされたい。
また,上記コア試料の形状が詳細に分かる写真を提供されたい。
(3)嘱託事項2-3
本件調査中の含有量試験について,その試験過程(採取時,風乾時,破砕時,篩い分け時,5つの試料の混合時等)における試料の形状が分かる写真を提供されたい。
(4)嘱託事項2-4
本件調査中の溶出量試験について,その試験過程(採取時,分析対象部分の分取時,5つの試料の混合時等)における試料の形状が分かる写真を提供されたい。
⑤ 嘱託事項2-5
各コア試料から分取した試料を等量ずつ混合した理由は,法令に基づくものか,群馬県からの指示によるものか明らかにされたい。群馬県からの指示だった場合,指示をした担当部署を明らかにされたい。
(6)嘱託事項2-6
本件調査で採取した試料中,鉄鋼スラグが混合されていた比率は何パーセント程度と推定されるか明らかにされたい。
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(7)嘱託事項2-7
国土交通省の調査(平成26年3月)の溶出量試験において,基準値を超過して4.4mg/Lの結果が出ていることについて,技術的観点からどのように評価するか明らかにされたい。
(8)嘱託事項2-8
本件調査の技術管理者の氏名と認証番号(技術管理者証の交付番号)を明らかにされたい。
2 被告の意見
(1)嘱託事項2-1について
ア 採取者は,プロファ設計所属の技術管理者及びその補助者であり,それ以上特定する必要性は認められないから,調査嘱託の必要はない。
なお,原告らが上記調査を求めるのは,被告が平成28年6月21日付け調査嘱託(以下,「被告調査嘱託」という。)の申立てにおいて甲42号証に係る試料の採取者の調査を求めたことを参考にしたものと思われるが,被告が上記調査を求めたのは,甲42号証では検査機関が採取したのかそれ以外の者が採取したのか分からないからであり,検査機関が採取したことが書面上明らかであれば調査を求めていない。
イ 採取場所は,環境調査業務報告書(乙14)の2頁,4頁及び5頁で特定されており,これ以上特定する必要性は認められないから,調査嘱託の必要はない。地番の特定,図面や写真の提供についても,必要性がない。
なお,原告らが上記調査を求めるのは,被告調査嘱託において甲42号証に係る試料の採取場所の特定を求めたことを参考にしたものと思われるが,被告が上記調査を求めたのは,甲42号証には採取場所として「東吾妻町萩生」としか記載がなく,しかも,試料名に「スラグ萩生置き場」との記載があり,これでは採取場所が分からないと言わざるを得ないからである。
ウ 採取条件は,質問の趣旨が不明確であり,調査を嘱託するのは相当でない。
工 採取時間ないし採取時刻は,それによって試料の性状が変わるわけでは
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ないから,本件においてそこまで特定する必要性は認められず,調査嘱託の必要はない。
(2)嘱託事項2-2について
ボーリングマシンで採取した試料の長さは1mであり(乙14・6頁,最後の3頁の写真),既に明らかになっているので,調査嘱託の必要性はない。
試料の直径は,本件において明らかにする必要性は認められないが,掘削口径86ミリメートルであり,本意見書において明らかにしたので,調査嘱託の必要性はない。
コア試料の形状が詳細に分かる写真は,環境調査業務報告書に添付されており(乙14・最後の3頁の写真),既に明らかになっているので,調査嘱託の必要性はない。
(3)嘱託事項2-3について
本件では,含有量試験は,環境調査業務報告書に示した前処理方法により行っており,各検査過程の試料の形状を写真で明らかにする必要性があるとは認められないので,調査嘱託の必要性はない。
(4)嘱託事項2-4について
上記(3)と同様の理由から,調査嘱託の必要性はない。
(5)嘱託事項2-5について
試験方法は,被告とプロファ設計の業務委託契約において被告が指定したものであり,本意見書において明らかにしたので,調査嘱託の必要性はない。
なお,担当部署まで明らかにする必要性は認められない。
(6)嘱託事項2-6について
意見を求めるものであり,調査嘱託の範囲を超えているので,調査嘱託は認められない。
(7)嘱託事項2-7について
上記(6)と同様,意見を求めるものであり,調査嘱託の範囲を超えているので,調査嘱託は認められない。
(8)嘱託事項2-8について
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本件において,技術管理者の氏名と技術管理者証の交付番号を明らかにする必要性は認められず,調査嘱託の必要はない。
以 上
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■このように、群馬県廃棄物・リサイクル課に、大同の有毒スラグに関する詳しい調査を求めたのに、同じく群馬県農政部農村整備課がそれを阻止すること自体、常識では考えられないことです。我々オンブズマンが出した調査嘱託申立について、群馬県農政部としては、それを裁判所が認めてしまうことになると、よほど都合が悪いようです。
特別管理廃棄物である大同スラグが農道に敷きこまれたのに、群馬県はそれを原因者である大同特殊鋼や佐藤建設工業に撤去させることなく、その上に舗装をかけて蓋をしてしまったことについて、あくまで正当化しようとする群馬県の役人体質はいったいどこから来るのでしょうか。
行政が自ら定めたルールを、自ら無視しているのですから、もし今回の訴訟で原告住民側が敗訴するとなると、ますます農業地帯への有害物質の不法投棄が助長されることになります。裁判所の判断が注目されます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】