■群馬高専の電子情報工学科を舞台に発生した陰湿極まるアカデミックハラスメント(アカハラ)事件。この忌まわしい事件に関連する情報公開請求を2015年6月26日に提出してから既に2年以上経過しました。当会は現在、群馬高専の上級機関である国立高等専門学校機構を被告として、不開示処分取消請求のための行政訴訟を行っています。その第6回口頭弁論が2017年9月1日(金)15:00から東京地裁5階522号法廷で開催されます。先日8月18日付で、被告の訴訟代理である弁護士事務所から準備書面(4回目に相当)が原告に郵送されてきました。僅か2頁の準備書面には驚かされましたが、それに対する反論として、当会は8月24日付で原告準備書面(5)を簡易書留で東京地裁及び被告訴訟代理人法律事務所に郵送しました。被告の準備書面4は次のブログをご覧ください。
○2017年8月21日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…大枚はたいて弁護士を起用し僅か2頁だけの被告準備書面4が到来↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2388.html
*****送付書兼受領書*****PDF ⇒ tei5j2017.8.24.pdf
送付書・受領書
〒104-0061
東京都中央区銀座5丁目7番1号 江島屋ビル7階
被告訴訟代理人
弁護士 木 村 美 隆 殿
平成29年8月24日
〒371-0801
前橋市文京町一丁目15-10
原 告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
TEL 027-224-8567 / FAX 027-224-6624
送 付 書
事件の表示 : 御 庁 平成28年(行ウ)第499号
当 事 者 : 原 告 市民オンブズマン群馬
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
次回期日 : 平成29年9月1日(金)午後3時00分
下記書類を送付致します。
1 原告準備書面(5) 1通
2 証拠説明書(甲15、16) 1通
3 甲第15号証 1通
4 甲第16号証 1通
以 上
--------------------切らずにこのままでお送り下さい--------------------
受 領 書
上記書類、本日受領致しました。
平成29年 月 日
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
被告訴訟代理人
弁護士
東京地方裁判所民事第3部B2係(佐藤春徳書記官殿)御中 :FAX 03-3580-5706
市民オンブズマン群馬事務局(事務局長 鈴木庸)あて :FAX 027-224-6624
*****原告準備書面(5)*****PDF ⇒ i5j20170824opr1.pdf
<P1>
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年8月24日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
原告準備書面(5)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
平成29年8月18日付の被告準備書面に対し、原告は次のとおり反論する。
1 8月18日付被告準備書面の2についての反論
(1)被告の主張が民事訴訟法(以下「民訴法」)第157条に抵触することについて
被告は、8月18日付被告準備書面の2(2)末尾において、「このため、開示請求1にかかる文書のうち、申告者や申告の対象者にかかる属性を黒塗りにしたとしても、同文書が個人のプライバシーにかかる文書として、権利侵害情報の記載された文書であることを、免れることはできない。」と主張する。
具体的反論を行う以前に、被告が被告準備書面において唯一なしたこの主張および提出した証拠は、そもそもこの時期に提出するものとして妥当なのか甚だ疑問である。
まず、本係争の流れを整理すれば、5月26日の第4回口頭弁論において、開示請求対象文書の各部分・各箇所について不開示事由を整理するよう裁判所からの指揮がなされた。
その指揮に基づき、被告は各請求先文書に関わるヴォーン・インデックス(以下「整理欄」)を作成し7月7日の第5回口頭弁論においてそれを陳述した。
さらに第5回口頭弁論を経て、当該整理欄については裁判所により微細な修正がなされ、7月14日付けで原告・被告双方に送達された。これをもって開示請求対象先文書の各箇所に関わる不開示事由について、被告側の主張としては確定したはずである。
<P2>
ここで整理欄を参照すれば、開示請求先①の文書については、学校として行った調査の期間・概要、及びその結果について法6条2項に関わる主張をなしておらず(つまり最低でも部分開示が可能である)、また、申告の対象者への対応の概要、学校としての対応、作成年月日、作成者については全面的に開示されることが決定しているとみることができる。しかるに被告側の今回の主張は、「部分開示が全面的に不適当であり不開示が妥当」などとし、審理の進行を整理欄作成以前に数か月以上も逆行させるものであり、時機に照らして適切な攻撃防御の方法であるとは大変に言い難い。
また被告は、被告準備書面の2(1)において、原告が訴訟情報を公開していることを不開示が妥当とする主張の最大の根拠としている(なお「市政をひらく安中市民の会」ブログは原告・市民オンブズマン群馬の代表の広報用ブログである)。しかし原告側の訴訟情報公開は、透明かつ公益に資する活動を行う市民オンブズマンという団体の性質上、また、当事件における原告・被告の陳述した全主張・全証拠が裁判公開の原則(特に当事件においては民訴法91条)に基づき何人も閲覧可能であることを前提として行っているものである(無論、裁判公開と訴訟の当事者が訴訟記録を公開することは別問題だが、問題となるのは会社法人や私人の間で係争が行われた場合のプライバシーやコンプライアンスの侵害であり、本事件のように独立行政法人や国の機関が被告である場合、公開の公益性・必要性は著しく高いと言える)。つまり原告が本係争に関する経過の公開を行うかどうかに関わらず、第三者が係争に関わる双方の主張・証拠を閲覧できることは、被告は本口頭弁論開始時点で当然既知であったのだから、原告の裁判情報公開を不開示に関わる新規理由として主張するのは、失当であるというほかなく、明らかに時機に後れている。
また加えて言えば、原告が提出した甲8、9、14号証は、関係者(特にハラスメント被害者側)のプライバシー保護、および、原告側の法5条に関わる主張が仮に認められないとしても、氏名・生年月日といった核心的な個人情報を除けば開示請求対象文書は基本的に開示可能であることを証明するため、氏名・属性については黒塗り加工を施したうえで提出されているということを確認しておかなければならない(開示請求対象①②文書の最低限の箇所が部分開示された場合を想定し、それ以上の情報は原告として提出していない)。
特に甲14号証は開示請求対象文書①のひとつである(と考えられる)が、被告が甲14号にあたる文書の不開示を妥当とする理由に、甲14号にあたる文書を原告が公開していることを挙げるのは、(原告によって公開されていなければ開示するのか、結局それは公開するということではないかということを考えれば)全くもって因果関係が成立しておらず、率直に言って意味不明な主張であるというほかない。
以上をもってすれば、被告が8月18日付準備書面の2においてなした主張および提出した証拠は、明らかに時機を逸している上に、新規主張として認められるに値しない不適
<P3>
当な主張であり、審理の進行を無視し、あるいは妨げる攻撃防御方法と認められるため、民訴法第157条1項の規定に基づき、その却下を求める。
(2)8月18日付被告準備書面における主張に対する個別的反論
当該準備書面2(1)において被告は「群馬高専には、電子工学科(ママ)、機械工学科、電子情報工学科等の5つの学科があり、それぞれに所属する学生の人数はいずれも40名程度、所属教員も各学科10人程度と少ない。」と主張する。
第一に「電子工学科」なる学科は群馬高専に存在しない。群馬高専本科は、機械工学科・電子メディア工学科・電子情報工学科・物質工学科・環境都市工学科の5つである(甲15)。次に、「それぞれに所属する学生の人数はいずれも40名程度」などとしているが、それは入学定員であって、群馬高専の本科1学科に所属する標準人数は約200名であり、全学科総計で約1000名である(甲15)。また、「所属教員も各学科10人程度と少ない」という主張についても、確かに本科の各学科のみを考慮すれば事実であるが、群馬高専教員は本科所属の他に自然科学科、人文科学科所属の教員が数十名おり、彼らも本科所属教員同様に研究室をもち、学生らの卒業研究を指導する立場である。
加えて言えば、ある学科の学生が、別の学科の教員の研究室に配属され師事するというケースも往々にしてある。そもそも、10人程度が特定を確実に可能にするに十分なほど「少ない」のかについても、議論の余地があろう。常識的観点に照らせば、特定の人物のみに関わる情報を除去した文書を見て、10人の人間の中から1人を特定するというのは、不可能であるし、しかもこれは、学科が特定されたうえでの話である。以上をもってすれば、被告のこの箇所の主張はほぼ全てが現状に沿わない不適切極まりないものであり、考慮する価値があるとは言い難いと原告として結論付けざるを得ない。
ついで被告は、当該準備書面2(2)において「他方、開示請求1にかかる文書には、申告者や申告の対象者の所属のほか、ハラスメントとされる行為が申告された事情や、学校がヒアリングを実施した時期とその結果の取り扱い等が記載されている。これらの情報と前期(1)により事実上開示されている情報等を照らし合わせれば、開示請求1ないし3にかかる文書の当事者(ハラスメントとされる行為の申告者及び申告の対象者)を特定することは容易に可能である。」と主張する。
そもそも文章後段との関係をみて、「申告者や申告の対象者にかかる属性を黒塗りにしたとしても、同文書が個人のプライバシーにかかる文書として、権利侵害情報の記載された文書であることを、免れることはできない」と結論付ける事由の1つとしてなぜ開示請求
<P4>
1にかかる文書に申告者や申告の対象者の所属が記載されていることを挙げているのか不明であり(結論との関係から言えば、黒塗りにすることが前提の議論ではなかったか)、論理がまったく破綻しており原告として被告の意図を掴みかねるものであると言わざるを得ない。
また、「ハラスメント行為の申告に至った事情、学校としての調査時期、およびその結果の取扱い」に関する情報を、果たして具体的にどのように他の情報と補完して用いれば、ハラスメントとされる行為を行った人物を特定可能であるのか、原告として被告の意図するところの理解に苦しむものである。
原告準備書面(3)の第3の1の(1)において説示したことに準じて、また、原告および被告(群馬高専)がかかる情報を公開しているとしても、到底特定が可能であると認めることはできない。
「ハラスメント行為の申告に至った経緯」と被告(群馬高専)が公開している教員情報や原告が公開している訴訟関連情報(裁判所に提出している主張もしくは証拠)を組み合わせてただちに「記載の人物はこの教員だ」と特定することは、具体的な氏名や役職、あるいは特定個人のみしか関与し得ないイベントに関わる記載がなければ不可能である。「学校としての調査時期、およびその結果の取扱い」についてもまったく同様である。
また、「他の情報と照らし合わせて特定個人を識別可能」という場合において、「他の情報」は一般人基準でみた入手性のほか、その信憑性・公的性質も問われると解するのが妥当である。つまり、特定学科名が原告により一部公開されていたとして、原告準備書面(1)において言及した通り、現段階で群馬高専がアカハラの存在を一切認めていないのであるから、それはあくまで少なくとも被告の公的な認識としては真偽不明の情報に過ぎないはずであり、もしこれを被告として照らし合わせるに足る情報としたいのであれば、まず被告自身が公的に特定学科において問題が発生していたことを認めなければならない。(仮に「公的に認められていないインターネット上の真偽不明情報」までもが照合対象情報となるのであれば、例えば匿名電子掲示板やツイッター等で自らの手で文書関連情報を少し漏らし、それを理由に不開示とするなどの一種のマッチポンプが成立、横行してしまう)。
また一般人に入手不能な「照合可能な他の情報」を入手し得る者としては、群馬高専関係者、特に申告者や申告の対象者に近しい学生等が考えられるが、彼らは基本的に文書開示請求①文書の配布対象であるか、あるいはすでにアカデミックハラスメントに関わる調査等々で関係者の本名・属性含め本事案について見聞しているわけだから、殊更に不開示とする理由は見当たらない。
2 開示請求対象文書関係者が文書開示に同意ないしは希望していることに関する擬制自白の成立について
<P5>
原告は準備書面(1)(2)(3)(4)の全てにおいて、開示請求対象文書①②③の内容に関してのプライバシーが帰属するアカデミックハラスメント事件の関係者、特に被害者の文書開示に対する意思を確認された上で、文書の各箇所の開示・部分開示・不開示が決定されるべきであると再三主張している。にも関わらず、被告は今回8月18日付け被告準備書面に至るまで完全に原告のこの主張について黙殺し、争う姿勢を見せていない。
被告による被害者らへの開示に対する意思確認義務は、法解釈または経験則、あるいは道義上の問題であるから、確かに黙殺しても事実であると認めることにはならないが、この原告の主張の前提となっている事実、すなわち準備書面(2)においても言及したとおり、すでに原告の調べによって、当該ハラスメント被害者である元教員・学生らのうち複数名が、すでに氏名等といった核心的な個人情報を除いた自身に関わる記載についての開示に同意ないしは開示を希望しているという事実がある。
ところがこのことについては、原告が争う姿勢を見せていないことから、民訴法第159条1項より、擬制自白による事実性の証明が事実上なされているとみてよい(厳密には擬制自白が成立するのは口頭弁論終了時であるが、被告が争う姿勢を一切見せておらず、今後見せる可能性も低いため、事実上成立しているとみて問題がないと考えてよいであろう)。なお、原告がこれを確認した方法としては直接のヒアリング、電話やメールでのやり取りの他、関係者を介しての間接的な確認も含まれ、また、原告からみて音信不通である場合等があり、文書に記載のある全員に対して確認作業を行った訳ではない。この確認結果について、法廷に記録として提出可能なもののうち一部を関係者・被害者による同意を証明する証拠として、個人情報を黒塗りにした上で甲16号証として提出する。
さて、甲16号証、および被告の擬制自白の事実上の成立をもって、開示請求対象文書に記載のある関係者・被害者のうち少なくとも大半が当該文書の開示に同意ないしは開示を希望していることが確認されるわけであるが、幾度にもわたって原告が主張する通り、プライバシーが帰属する主体者はどこまで行っても当人なのであって、その意志に反してプライバシーの処遇を保有機関が恣意的に決めることは、現代日本法制における「プライバシー」の定義の根幹を揺るがす重大な挑戦であり、また情報公開法の原則公開の理念を徹底的に蔑ろにしたものであるということを再度強く指摘せねばならない。したがって被告の主張や行動は自己情報コントロール権をはじめとした人権の蹂躙であるとすら形容でき、失当であるというほかない。
3 審理の円滑な進行に向けて
以上のように、被告の準備書面は、いやしくも法曹たるはずの被告代理人が1カ月半の猶予期間を以って作成した成果物とは到底信じがたいほど考慮、検討に値しない内容で、
<P6>
結果的に民事裁判の迅速化に逆行するものであり、審理の進行を妨げるこうした行為に被告がこれ以上ふけることのないよう、強く望む次第である。
以上
*****証拠説明書(甲15・16)******PDF ⇒ ib15.16j20170824.pdf
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年8月24日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
証 拠 説 明 書(甲15・16)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小 川 賢 ㊞
●号証:甲15
PDF ⇒ ybptz2017n29nxwzvp78.pdf
○標目:平成29年度学校要覧(表紙、P7及びP8)
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年4月ごろ
○作成者:群馬高専
○立証趣旨:群馬高専の学科名・学科構成・学生数・教員構成について被告側の説明に誤りが多いことを示す。
●号証:甲16
PDF ⇒ ybpuzjwvmf.pdf
○標目:文書開示に関わる関係者への意思確認結果(一部)
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年8月24日 原告
○立証趣旨:開示請求対象文書に係る関係者・被害者の多くが該当文書の開示に同意ないしは開示を希望しているという事実を示す。
以上
**********
■裁判長は、9月1日の第6回口頭弁論期日を以って結審する可能性があります。しかし予断は許されません。もし被告側が追加でさらに主張したいと言ってきた場合には、こちらも更なる反論を準備することになります。
新体制になっても文科省の影響を強く受けているかたちになっているため、学校側の秘匿体質は依然として払しょくし切れていません。だからこそ、群馬高専のみならず国立高専はアカハラの再発を決して許さないという姿勢を世間に見せなければなりません。たとえ裁判所の判決が自分たちの都合に反する結果となり、忸怩たる思いがあったとしても、積極的な開示姿勢が学校に対する保護者やOBの皆さんの信頼回復に欠かせないことを肝に銘じてほしいと思います。
9月1日の経緯と結果については追って後日報告します。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
○2017年8月21日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…大枚はたいて弁護士を起用し僅か2頁だけの被告準備書面4が到来↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2388.html
*****送付書兼受領書*****PDF ⇒ tei5j2017.8.24.pdf
送付書・受領書
〒104-0061
東京都中央区銀座5丁目7番1号 江島屋ビル7階
被告訴訟代理人
弁護士 木 村 美 隆 殿
平成29年8月24日
〒371-0801
前橋市文京町一丁目15-10
原 告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
TEL 027-224-8567 / FAX 027-224-6624
送 付 書
事件の表示 : 御 庁 平成28年(行ウ)第499号
当 事 者 : 原 告 市民オンブズマン群馬
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
次回期日 : 平成29年9月1日(金)午後3時00分
下記書類を送付致します。
1 原告準備書面(5) 1通
2 証拠説明書(甲15、16) 1通
3 甲第15号証 1通
4 甲第16号証 1通
以 上
--------------------切らずにこのままでお送り下さい--------------------
受 領 書
上記書類、本日受領致しました。
平成29年 月 日
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
被告訴訟代理人
弁護士
東京地方裁判所民事第3部B2係(佐藤春徳書記官殿)御中 :FAX 03-3580-5706
市民オンブズマン群馬事務局(事務局長 鈴木庸)あて :FAX 027-224-6624
*****原告準備書面(5)*****PDF ⇒ i5j20170824opr1.pdf
<P1>
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年8月24日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
原告準備書面(5)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
平成29年8月18日付の被告準備書面に対し、原告は次のとおり反論する。
1 8月18日付被告準備書面の2についての反論
(1)被告の主張が民事訴訟法(以下「民訴法」)第157条に抵触することについて
被告は、8月18日付被告準備書面の2(2)末尾において、「このため、開示請求1にかかる文書のうち、申告者や申告の対象者にかかる属性を黒塗りにしたとしても、同文書が個人のプライバシーにかかる文書として、権利侵害情報の記載された文書であることを、免れることはできない。」と主張する。
具体的反論を行う以前に、被告が被告準備書面において唯一なしたこの主張および提出した証拠は、そもそもこの時期に提出するものとして妥当なのか甚だ疑問である。
まず、本係争の流れを整理すれば、5月26日の第4回口頭弁論において、開示請求対象文書の各部分・各箇所について不開示事由を整理するよう裁判所からの指揮がなされた。
その指揮に基づき、被告は各請求先文書に関わるヴォーン・インデックス(以下「整理欄」)を作成し7月7日の第5回口頭弁論においてそれを陳述した。
さらに第5回口頭弁論を経て、当該整理欄については裁判所により微細な修正がなされ、7月14日付けで原告・被告双方に送達された。これをもって開示請求対象先文書の各箇所に関わる不開示事由について、被告側の主張としては確定したはずである。
<P2>
ここで整理欄を参照すれば、開示請求先①の文書については、学校として行った調査の期間・概要、及びその結果について法6条2項に関わる主張をなしておらず(つまり最低でも部分開示が可能である)、また、申告の対象者への対応の概要、学校としての対応、作成年月日、作成者については全面的に開示されることが決定しているとみることができる。しかるに被告側の今回の主張は、「部分開示が全面的に不適当であり不開示が妥当」などとし、審理の進行を整理欄作成以前に数か月以上も逆行させるものであり、時機に照らして適切な攻撃防御の方法であるとは大変に言い難い。
また被告は、被告準備書面の2(1)において、原告が訴訟情報を公開していることを不開示が妥当とする主張の最大の根拠としている(なお「市政をひらく安中市民の会」ブログは原告・市民オンブズマン群馬の代表の広報用ブログである)。しかし原告側の訴訟情報公開は、透明かつ公益に資する活動を行う市民オンブズマンという団体の性質上、また、当事件における原告・被告の陳述した全主張・全証拠が裁判公開の原則(特に当事件においては民訴法91条)に基づき何人も閲覧可能であることを前提として行っているものである(無論、裁判公開と訴訟の当事者が訴訟記録を公開することは別問題だが、問題となるのは会社法人や私人の間で係争が行われた場合のプライバシーやコンプライアンスの侵害であり、本事件のように独立行政法人や国の機関が被告である場合、公開の公益性・必要性は著しく高いと言える)。つまり原告が本係争に関する経過の公開を行うかどうかに関わらず、第三者が係争に関わる双方の主張・証拠を閲覧できることは、被告は本口頭弁論開始時点で当然既知であったのだから、原告の裁判情報公開を不開示に関わる新規理由として主張するのは、失当であるというほかなく、明らかに時機に後れている。
また加えて言えば、原告が提出した甲8、9、14号証は、関係者(特にハラスメント被害者側)のプライバシー保護、および、原告側の法5条に関わる主張が仮に認められないとしても、氏名・生年月日といった核心的な個人情報を除けば開示請求対象文書は基本的に開示可能であることを証明するため、氏名・属性については黒塗り加工を施したうえで提出されているということを確認しておかなければならない(開示請求対象①②文書の最低限の箇所が部分開示された場合を想定し、それ以上の情報は原告として提出していない)。
特に甲14号証は開示請求対象文書①のひとつである(と考えられる)が、被告が甲14号にあたる文書の不開示を妥当とする理由に、甲14号にあたる文書を原告が公開していることを挙げるのは、(原告によって公開されていなければ開示するのか、結局それは公開するということではないかということを考えれば)全くもって因果関係が成立しておらず、率直に言って意味不明な主張であるというほかない。
以上をもってすれば、被告が8月18日付準備書面の2においてなした主張および提出した証拠は、明らかに時機を逸している上に、新規主張として認められるに値しない不適
<P3>
当な主張であり、審理の進行を無視し、あるいは妨げる攻撃防御方法と認められるため、民訴法第157条1項の規定に基づき、その却下を求める。
(2)8月18日付被告準備書面における主張に対する個別的反論
当該準備書面2(1)において被告は「群馬高専には、電子工学科(ママ)、機械工学科、電子情報工学科等の5つの学科があり、それぞれに所属する学生の人数はいずれも40名程度、所属教員も各学科10人程度と少ない。」と主張する。
第一に「電子工学科」なる学科は群馬高専に存在しない。群馬高専本科は、機械工学科・電子メディア工学科・電子情報工学科・物質工学科・環境都市工学科の5つである(甲15)。次に、「それぞれに所属する学生の人数はいずれも40名程度」などとしているが、それは入学定員であって、群馬高専の本科1学科に所属する標準人数は約200名であり、全学科総計で約1000名である(甲15)。また、「所属教員も各学科10人程度と少ない」という主張についても、確かに本科の各学科のみを考慮すれば事実であるが、群馬高専教員は本科所属の他に自然科学科、人文科学科所属の教員が数十名おり、彼らも本科所属教員同様に研究室をもち、学生らの卒業研究を指導する立場である。
加えて言えば、ある学科の学生が、別の学科の教員の研究室に配属され師事するというケースも往々にしてある。そもそも、10人程度が特定を確実に可能にするに十分なほど「少ない」のかについても、議論の余地があろう。常識的観点に照らせば、特定の人物のみに関わる情報を除去した文書を見て、10人の人間の中から1人を特定するというのは、不可能であるし、しかもこれは、学科が特定されたうえでの話である。以上をもってすれば、被告のこの箇所の主張はほぼ全てが現状に沿わない不適切極まりないものであり、考慮する価値があるとは言い難いと原告として結論付けざるを得ない。
ついで被告は、当該準備書面2(2)において「他方、開示請求1にかかる文書には、申告者や申告の対象者の所属のほか、ハラスメントとされる行為が申告された事情や、学校がヒアリングを実施した時期とその結果の取り扱い等が記載されている。これらの情報と前期(1)により事実上開示されている情報等を照らし合わせれば、開示請求1ないし3にかかる文書の当事者(ハラスメントとされる行為の申告者及び申告の対象者)を特定することは容易に可能である。」と主張する。
そもそも文章後段との関係をみて、「申告者や申告の対象者にかかる属性を黒塗りにしたとしても、同文書が個人のプライバシーにかかる文書として、権利侵害情報の記載された文書であることを、免れることはできない」と結論付ける事由の1つとしてなぜ開示請求
<P4>
1にかかる文書に申告者や申告の対象者の所属が記載されていることを挙げているのか不明であり(結論との関係から言えば、黒塗りにすることが前提の議論ではなかったか)、論理がまったく破綻しており原告として被告の意図を掴みかねるものであると言わざるを得ない。
また、「ハラスメント行為の申告に至った事情、学校としての調査時期、およびその結果の取扱い」に関する情報を、果たして具体的にどのように他の情報と補完して用いれば、ハラスメントとされる行為を行った人物を特定可能であるのか、原告として被告の意図するところの理解に苦しむものである。
原告準備書面(3)の第3の1の(1)において説示したことに準じて、また、原告および被告(群馬高専)がかかる情報を公開しているとしても、到底特定が可能であると認めることはできない。
「ハラスメント行為の申告に至った経緯」と被告(群馬高専)が公開している教員情報や原告が公開している訴訟関連情報(裁判所に提出している主張もしくは証拠)を組み合わせてただちに「記載の人物はこの教員だ」と特定することは、具体的な氏名や役職、あるいは特定個人のみしか関与し得ないイベントに関わる記載がなければ不可能である。「学校としての調査時期、およびその結果の取扱い」についてもまったく同様である。
また、「他の情報と照らし合わせて特定個人を識別可能」という場合において、「他の情報」は一般人基準でみた入手性のほか、その信憑性・公的性質も問われると解するのが妥当である。つまり、特定学科名が原告により一部公開されていたとして、原告準備書面(1)において言及した通り、現段階で群馬高専がアカハラの存在を一切認めていないのであるから、それはあくまで少なくとも被告の公的な認識としては真偽不明の情報に過ぎないはずであり、もしこれを被告として照らし合わせるに足る情報としたいのであれば、まず被告自身が公的に特定学科において問題が発生していたことを認めなければならない。(仮に「公的に認められていないインターネット上の真偽不明情報」までもが照合対象情報となるのであれば、例えば匿名電子掲示板やツイッター等で自らの手で文書関連情報を少し漏らし、それを理由に不開示とするなどの一種のマッチポンプが成立、横行してしまう)。
また一般人に入手不能な「照合可能な他の情報」を入手し得る者としては、群馬高専関係者、特に申告者や申告の対象者に近しい学生等が考えられるが、彼らは基本的に文書開示請求①文書の配布対象であるか、あるいはすでにアカデミックハラスメントに関わる調査等々で関係者の本名・属性含め本事案について見聞しているわけだから、殊更に不開示とする理由は見当たらない。
2 開示請求対象文書関係者が文書開示に同意ないしは希望していることに関する擬制自白の成立について
<P5>
原告は準備書面(1)(2)(3)(4)の全てにおいて、開示請求対象文書①②③の内容に関してのプライバシーが帰属するアカデミックハラスメント事件の関係者、特に被害者の文書開示に対する意思を確認された上で、文書の各箇所の開示・部分開示・不開示が決定されるべきであると再三主張している。にも関わらず、被告は今回8月18日付け被告準備書面に至るまで完全に原告のこの主張について黙殺し、争う姿勢を見せていない。
被告による被害者らへの開示に対する意思確認義務は、法解釈または経験則、あるいは道義上の問題であるから、確かに黙殺しても事実であると認めることにはならないが、この原告の主張の前提となっている事実、すなわち準備書面(2)においても言及したとおり、すでに原告の調べによって、当該ハラスメント被害者である元教員・学生らのうち複数名が、すでに氏名等といった核心的な個人情報を除いた自身に関わる記載についての開示に同意ないしは開示を希望しているという事実がある。
ところがこのことについては、原告が争う姿勢を見せていないことから、民訴法第159条1項より、擬制自白による事実性の証明が事実上なされているとみてよい(厳密には擬制自白が成立するのは口頭弁論終了時であるが、被告が争う姿勢を一切見せておらず、今後見せる可能性も低いため、事実上成立しているとみて問題がないと考えてよいであろう)。なお、原告がこれを確認した方法としては直接のヒアリング、電話やメールでのやり取りの他、関係者を介しての間接的な確認も含まれ、また、原告からみて音信不通である場合等があり、文書に記載のある全員に対して確認作業を行った訳ではない。この確認結果について、法廷に記録として提出可能なもののうち一部を関係者・被害者による同意を証明する証拠として、個人情報を黒塗りにした上で甲16号証として提出する。
さて、甲16号証、および被告の擬制自白の事実上の成立をもって、開示請求対象文書に記載のある関係者・被害者のうち少なくとも大半が当該文書の開示に同意ないしは開示を希望していることが確認されるわけであるが、幾度にもわたって原告が主張する通り、プライバシーが帰属する主体者はどこまで行っても当人なのであって、その意志に反してプライバシーの処遇を保有機関が恣意的に決めることは、現代日本法制における「プライバシー」の定義の根幹を揺るがす重大な挑戦であり、また情報公開法の原則公開の理念を徹底的に蔑ろにしたものであるということを再度強く指摘せねばならない。したがって被告の主張や行動は自己情報コントロール権をはじめとした人権の蹂躙であるとすら形容でき、失当であるというほかない。
3 審理の円滑な進行に向けて
以上のように、被告の準備書面は、いやしくも法曹たるはずの被告代理人が1カ月半の猶予期間を以って作成した成果物とは到底信じがたいほど考慮、検討に値しない内容で、
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結果的に民事裁判の迅速化に逆行するものであり、審理の進行を妨げるこうした行為に被告がこれ以上ふけることのないよう、強く望む次第である。
以上
*****証拠説明書(甲15・16)******PDF ⇒ ib15.16j20170824.pdf
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年8月24日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
証 拠 説 明 書(甲15・16)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小 川 賢 ㊞
●号証:甲15
PDF ⇒ ybptz2017n29nxwzvp78.pdf
○標目:平成29年度学校要覧(表紙、P7及びP8)
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年4月ごろ
○作成者:群馬高専
○立証趣旨:群馬高専の学科名・学科構成・学生数・教員構成について被告側の説明に誤りが多いことを示す。
●号証:甲16
PDF ⇒ ybpuzjwvmf.pdf
○標目:文書開示に関わる関係者への意思確認結果(一部)
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年8月24日 原告
○立証趣旨:開示請求対象文書に係る関係者・被害者の多くが該当文書の開示に同意ないしは開示を希望しているという事実を示す。
以上
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■裁判長は、9月1日の第6回口頭弁論期日を以って結審する可能性があります。しかし予断は許されません。もし被告側が追加でさらに主張したいと言ってきた場合には、こちらも更なる反論を準備することになります。
新体制になっても文科省の影響を強く受けているかたちになっているため、学校側の秘匿体質は依然として払しょくし切れていません。だからこそ、群馬高専のみならず国立高専はアカハラの再発を決して許さないという姿勢を世間に見せなければなりません。たとえ裁判所の判決が自分たちの都合に反する結果となり、忸怩たる思いがあったとしても、積極的な開示姿勢が学校に対する保護者やOBの皆さんの信頼回復に欠かせないことを肝に銘じてほしいと思います。
9月1日の経緯と結果については追って後日報告します。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】